君を好きでいいですか?-2
「彼は私の連れです」
―!!
彼女だった。彼女の澄み切った声がざわつく店内に響きわたる。
―な…んで…
俺の体から力が抜けていく…
「私の連れです。彼らとは関係ありません!!お勘定お願いします!!」
彼女は、俺が掴んでいた店員の胸元に難しそうな本をたたきつけた。
「あ…いや…すみません…はい、すぐに…」
店員は俺から離れると彼女の本を大切そうに抱え、レジへ向かった。
―………
店を見渡すとざわざわとしており、確実に俺たちは注目を集めていた。
ドキッー
俺は彼女といていいのか?万引き犯と同等な俺…彼女まで巻き込んで…こんな俺が…
やっぱり汚してしまったように感じた。あんなに高貴できれいな彼女を、俺が…
「ちょっと待ってろ」
支払いを済まし戻ってきた彼女に俺はそう言うと、向かいのコンビニへ向かった。
俺、この雨の中、せめて彼女が濡れないよう傘を買ったのだ。
−俺は、好きでいていいのだろうか…
本屋に戻ると、彼女は店の前に立っていた。
―きれー…
俺、無言で彼女に傘を突きつけた。
「…あなたは?」
一本しかない傘を見て、彼女は俺の顔をのぞき込んだ。
―…寄んな…こんな俺に…
「いいから」
俺、傘を押しつけると彼女に背を向けた。
「待って」
彼女の声で俺の足が止まる。
「私、神崎鈴香(かんざき すずか)傘ありがとう、昨日も…ありがとう、高山さん…」
―え?名前…
俺、驚いて彼女の方へ向き直った。
―うわっ!!
彼女の笑顔だ。
彼女はこんな俺に…
「びっくりた。髪、黒くなってたから」
「あ〜…」
だって、君の隣にいたいから…恥ずかしくない俺で…ふさわしい俺で…君を好きでいたいから…
俺、真っ黒の髪をグッとにぎった。
−…言葉が浮かばない……
「じゃ、じゃあな」
俺、飛び出るかと思うほどドクドクいう心臓を押さえると雨の中を走り抜いた。
―彼女が笑って、俺の名前を呼んだ…?俺の…
やっと正気に戻ったのは、もう家の前だった。
―神崎…鈴香…って言ったよな……神崎鈴香…すずか…
彼女の名前を頭に浮かべるだけで、胸がぎゅっと締め付けられるようで…
彼女の笑顔が…
―あっっ!!ハンカチ!!
気づいた時にはもう遅く、ジャケットの中でぐっちゃり濡れていた。
―ああぁぁぁーー…なんっでかな〜…なんっで渡してない!!俺のバカ!!バカ!!だめだ、こんなの渡せないーー!!
月曜日の朝、俺の通学鞄の中には、紫のハンカチが二つになっていた。