螺旋の邂逅 vol.2-3
「何故?」
「…このままでは婚期を逃してしまいますし、相手が春宮さまで、それも、あちらからのお誘いともあればまたとない良縁でございますわ。」
「そうね。」
「……これをあの方の御元へお届けしてちょうだい。」
そう言って私は文箱に文を入れ、小納言に渡した。
「姫さま、何とお書きに?」
「゛あなたの正体…?
正体も何もないのではありませんの?゛
と。」
と、扇で口元を隠し、微笑んだ。
だって、偽りの身分・名で彼は送ってきてたのだから…。
ー…うまく逃げる方ですこと…。
それにしても、また駄目ですのね…。春宮さまもお気の毒に…ー
小納言は落胆していた。
そして、数ヵ月後
空気が澄み、月や星が美しい季節の雪の降る晩
「姫さま
左大臣さまからのお使いの者が参りまして、゛明晩、姫たちの琴の音を聴かせてほしい゛とのことでございます。」
と、女房が私に告げた。
「…まぁ、中君と?
゛私の拙い演奏でよろしければいくらでも゛と、お伝えしてちょうだい。あと、中君を呼んできて。」
と、私は答えた。
「承知いたしました。」
女房が出ていった後、
ー…父上が私たちの琴を…だなんて珍しいこと…。
何も企んでないとよいけれど…ー
と、思いながら私は舞い散る雪を眺めていた。
二日後
バタバタと足音がして、女房の一人が息を切らせて私の部屋へやってきた。
「姫さま!…大君さま!!
と…春宮さまから御文が…!」
そう言って彼女は文箱を差し出した。
私付きの女房達も皆、騒いでいた。
ー・・・実名を…ー
「…こちらへ」私は文を受け取り、読んだ。
「……父上は今いらっしゃるかしら…?」
と、私が文から目を離さずに言うと、
「北の方さまに伺って参ります。」
と、言って女房の一人が急いで出ていった。
ー…何か企んでないかと思っていたけれど…
まさか、あの時、見られていたなんて…ー
「姫さま、左大臣さまがいらっしゃいましたのでお連れ致しました。」
と、先程出ていった女房が父を連れて戻ってきた。
「ご苦労さま」
「何だい?大君」
と、父は不思議そうな顔で尋ねた。
私は父の方を向いて、
「率直に申し上げます。
春宮さまより先程このような御文が参りました。」
と、言って文を渡し、
「そこに書かれている内容…どういうことかご説明頂けますか?」
と、言った。
すると、父は文を読んだ後
「…確かに私は昨晩、春宮にお忍びでこの邸に来て頂き、お前の琴の音と遠くからお前の姿を御覧にいれた。
しかし、それは、熱心にお前に御文を送り続けてくださっているのに、春宮がお前の姿を御簾越しにも一度も見たことがないから気の毒に思ったからであって…」
「要は、父上は私に春宮妃になれと?」
煮え切らない父の言葉を遮り、私は言った。
もはや、誰が父に春宮からの文のことをバラしたかなどどうでもよかった。