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moon
【純愛 恋愛小説】

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moon-1

「月ってさ、人の心に似てると思わない?」

窓ガラスに両手を当て、上目遣いで見ながら突如そう言い放った愛しい君に僕はそっと近づき

「なぜ?」

そう尋ねた。
君は真剣な瞳を僕の方に向け、細く小さな腕を広げ僕を誘う。
僕は、彼女を優しく受け止めそっと自分の足の上に君を乗せる。

「だって、昨日まではあんなにまん丸だった月も今はほらっ。少しだけかけてきてる。」

安心しきった様子で僕の胸にもたれ掛かる君を優しく抱きしめながら、君の視線を追っていくと、窓ガラスに映る僕の膝の上でくつろぐ君とそれをまるで壊れ物でも扱うかのように優しく抱きしめる自分の姿が真っ先に目に映った。
その光景がなぜだか妙に胸をかき立てて・・・
僕は、彼女を自分から下ろすとゆっくりと電気を消すため立ち上がった。
カチッというスイッチの音とともに目の前は一気に闇が広がり、月明かりだけが僕たちの全てとなった。
ぼんやりと浮きだつ君の顔をじっと見つめていると、君は先ほどと同じように両手を広げ僕を待つ。それが無性にうれしくて、少しだけ笑みを漏らしながらやはり先ほどと同じように君に近づき、抱きしめた。

こうしていると、何だか落ち着くような気がする。

君の重さが

君の温もりが

君の甘い香りが

君の全てが僕の物になったような錯覚を引き起こすから。
絶対に一つになることのない僕たち。
そんなこと、よく解っているのに…。
一つになってしまいたい。
そう願ってしまう僕が居る。
君の過去も現在も、そして未来さえも僕のものにしたいと願っている自分が居る。

愛せば愛すほど…

触れれば触れるほど…

共に居ればいるほど…

君との距離を感じてしまう…。

一緒に居たいのに居たくないという矛盾を抱えるのは決まってそれを感じたときだ。

僕は、不意に心細さを感じ、君をギュッと抱きしめた。
そんな僕に、“大丈夫だよ”っというような瞳で笑う君に、言いようのない愛しさを覚え、泣きそうになってしまった。僕は彼女の肩に顔を埋めた。
そんな僕の腕を君は軽く揺さぶり、

「ほら見て!月がきれいだょ」

そう言い、君が振り向くのを感じた。

僕はゆっくり顔を上げ、うれしそうに微笑む君の顔を見つめ、再び外へと視線を移した。

「ねっ?きれいでしょ!?」

「…そうだね。」

実際のところ、塗れた瞳では月がきれいかどうかなんてほとんど解らなかった。ただ、僕の胸の中でうれしそうにそう言う君があまりにも愛しすぎて…
僕は、月よりも君の笑顔を思い浮かべ、そう答えていた。

「でしょっ?…でも」

「でも?」

「やっぱり月ってあまり見たくない。」
あれだけ見といて?っと、少しだけ意地悪っぽく笑ってやると、プーっと頬を膨らませ僕をにらむ君がまた愛しくて…
冗談だよっと優しく囁き、ギュッと抱きしめた。
君はまだどこか不満そうな顔をしていたが、

「どうしてイヤなの?」

そう尋ねてみると、思い出したかのように、真っ直ぐ窓の外を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


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