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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-16

 裏口から外に出ると、そこで美弥と瀬里奈が待っていた。
「龍之介……っ!」
 龍之介は迷う事なく、駆け寄って来た美弥を抱き締める。
 華奢な肢体は、龍之介に安らぎを与えてくれた。
「龍之介……」
 美弥は爪先立って龍之介の首に腕を回し、すがりつく。
「大丈夫?」
 首の辺りへ吐息を吹き掛けられながらの問いに、龍之介は頷いた。
 ――龍之介の体は今もなお成長を続けており、美弥との間にはだいぶ身長差ができている。
 一年経たないうちに龍之介の身長は百六十弱から百七十弱へ伸び、もう百七十五センチを突破しそうな勢いなのだ。
 兄の竜彦も百八十センチ以上の長身だし、兄とそっくりな龍之介もまだ背が伸びると推察されるから、立った美弥が首にすがりつくのも楽ではない。
「うっわぁー、バカップルが一組おる〜」
 後から出てきた紘平が、そう言う。
「あら、羨ましいの?」
 瀬里奈の言葉に、紘平は頷いた。
「ちょっとな〜」
「じゃ、そのうちしてあげる」
「……あれ?」
「……ん?」
 何か奇妙な物を感じ、美弥と龍之介は抱擁を解いて二人を見る。
「……知り合いなの?」
 問い掛けに、瀬里奈は肩をすくめた。
「さっき言いかけたでしょ?『あ……』って」
「まさか……新しい彼氏、とか?」
 眉をしかめた美弥の言葉に、瀬里奈は頷く。
「あいつみたいにお試し期間なんてケチ臭い事は言わないわ。きちんとした彼氏よ」
「出会いは、俺のナンパやけどな」
『えーーーーっ!!?』
 美弥と龍之介は、声をハモらせて驚いた。
「二人と知り合いなんは、ほんっきで偶然やで」
「そのうちきちんと言おうと思ってたんだけど、ね。ちょっと早くなったけどまあ、そういう事よ」


「おっどろきー……」
 美弥は、かれこれ三度目の呟きを漏らしていた。
 隣にいた龍之介は、頷いてからミルクたっぷり甘めの紅茶を啜る。
 ――ここは、龍之介の部屋。
 美弥は女性に触られた龍之介の身を案じて、高崎家に立ち寄っていた。
「僕も驚いたけどさ……美弥」
 紅茶を飲み干すと、龍之介は美弥から微妙に視線を外す。
「ん?」
「……そろそろ家に帰った方がいいと思うよ」
 そして、素っ気ない口調で龍之介はそう言った。
「……傍にいなくて、いい?」
 問われると、龍之介はため息をつく。
「いて欲しいから困ってるんだ」
「じゃ、無理しないでよ……」
 美弥は龍之介に頭をもたせ掛けた。
「……このままじゃあ、帰したくなくなるから」
 龍之介は、やんわりと美弥を引き剥がす。
「……帰りたくないんだけど?」
 再びくっつく美弥を引き剥がす余裕は……龍之介にはもはや、残っていなかった。
 抱き締めたいキスしたい愛しみたい。
 頭の中身は、そんな思考で埋め尽くされる。
 だが今日も明日も世の中は平日で、美弥を泊めるのには躊躇いがあった。
「……無茶は言わないように」
 何とか理性を搾り出し、龍之介は諭す。
 我ながら、声に説得力がない。
 そして今の美弥には、納得力がない。
 自分が立ち直るまで付き合う心構えで、寄り添ってくれているのだから。
「彩子さんの恨みは買いたくないよ」
 言われた美弥はきょとんっ、とした顔になる。
「お母さんの恨み?」
「そう、彩子さんの恨み」
 龍之介は、再度諭した。
 あの迫力あるお母上を遠慮なく『おばさん』と呼称するのは相当な覚悟をもってしても難しく、龍之介は無難な所で『彩子さん』と呼んでいる。
 彩子の方は龍之介の事を娘を預けるにふさわしいと思っているのかいないのか、未だに呼び方は『彼氏』であって名前で呼ぶという事はない。
「今度何かトラブっても味方にはならないって宣言されてるし、さ」
 美弥は目線を下にやり、唇を噛んだ。
「うあ〜……」
 龍之介は、思わず呻く。
 噛んだせいで形の歪んだ唇に、キスしたくて堪らない。
 毎日きちんとお手入れしているらしく、ふっくらぷるぷるしっとりぷるりんっ、というような感触をした唇に。
 舌を這い込ませると、甘く香ばしい吐息と熱い口腔と可愛い鳴き声で迎え入れてくれる唇に。
 そしてたっぷりと唇を味わった後はもちろん……。
「あああああ」
 こんな煩悩に囚われるから、早く美弥を家に帰したかったのだ。
「……いいもん」
 うつむいていた美弥は顔を上げ、龍之介の目を見据える。
「家に連絡入れればいいでしょ?」
「いやあの」
 やや予想外の展開にあたふたする龍之介を尻目に美弥は携帯を取り出し、自宅に電話をかけた。
 電話に出た相手と二言三言話した後、電話を切って龍之介を見る。
「お母さん、いいって言ってたよ?」
 龍之介は、ため息をついた。
 お泊り決定、である。
 部屋に泊める事を嫌がりつつも離れたくない当の龍之介が、美弥に逆らえる訳がない。


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