「意地悪なキスの痕」-3
「っ、課長…」
「嫌か?」
悔しさが滲むような瞳が、さっとそらされた。唇はきつく結ばれていて、まるで全て拒むかのような態度。
なのに身体の方は、あっけなく服従の態を晒している。
押し倒されて服を脱がされただけなのに、下半身はすでに次の段階に期待して膨らみを増していた。
「言いたい事があるなら言えばいい」
頑なな唇、首筋、喉仏まで、好きな場所を責めて答えを促す。
けれど口を開こうとしない。
ただ何か言いたそうな瞳が、劣情に濡れ始めていた。
「も、もう…黙ってしてください…っ」
しがみつく指先が合図のように、ただ無言でその身体を貪った。
何か言いたそうにするのは、いつもの事だった。
だが、このキスマークといい頑なな態度といい、気になり始める。
一体何を心の奥に潜ませているのだろう?
まるで心の奥まで探るように、敏感な身体を抱きしめた。
どんなに最低な男だとしても、貴方を嫌いになる選択肢はなかった。
嫌いになれたら、きっと切なくてたまらなくなる。
どんなに痛くたっていい。貴方への気持ちを忘れたくない。
だから、どんな我慢だってする。
貴方が誰のものだっていい。俺の事を所有してくれているなら。
(気付いてる…はずだけど)
首筋にはまだ2日前のキスマークが残っている。
だが、彼はその事について何も切り出したりしなかった。
もともと無口な彼だけれど、後ろめたい事があると余計に気になってしまう。
何を考えて、何を求めているんだろうか。
考えれば考えるほど、深みに嵌っていく気がした。
「ん……っ、あ」
逢引の場所は決まってこの会議室。
ここは彼の管轄だから、鍵をかけて使用中にしてしまえば誰も侵入は出来ない。
二人きりになれて嬉しいはずなのに、昨日から心の靄は晴れそうになかった。
もう時期が来ているのだろう。
(はっきり…聞いてみたい)
感情が、零れる。
彼が受け止めてくれるだなんて思ってもいないのに、儚い期待を抱く自分が浅はかだと笑いたくもなった。
首筋に埋められていた顔をどうにか上げさせる。
不思議そうな不満そうな視線が、不躾にあげられた。
俺はひとつ呼吸を置いて、服装の乱れを直す。
「あの…話したい事があるんですが」
「何だ」
「っ…、手、止めて下さい」
「…」
まだ行為を続けようとする彼をきつく牽制する。
ぶすっとした顔をして、彼はようやく身体を離した。