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「意地悪なキスの痕」
【同性愛♂ 官能小説】

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「意地悪なキスの痕」-4

(ほんっとにこの人は…)

「仕事の話か?」

「いえ。貴方の事です」

シャツのボタンを留めて、ネクタイを締めなおした。
今日はするつもりはない、とはっきりと態度で示してみる。
すると彼の方も、少し緩んでいたネクタイをきつく締めて、上司の顔へと戻った。
緩やかな仕草で会議用の椅子に腰掛ける彼を見ると、どうも話がしづらくなる。
けれど、視線は逸らしたくなかった。

「…」

聞きたいと思っていた言葉が、心の中をぐるぐると駆け巡る。でも何から言葉にしていいのか分からない。
無言のままで居ると、珍しく彼が口を開いた。

「昨日から、様子がおかしいな」

(そういう事は気付いてるのか…)

 てっきり気付かれていないと、自分のことはセックスの対象でしか見られていないと思っていたから、彼の口から飛び出した言葉に心臓が跳ねる。
ドキドキと脈打つ胸元を押さえ、俺は俯いた。

「……別れ話でもしたいか」

「ち、違いますっ…」

はじかれたように、思わず答えてしまっていた。
別れるつもりなんてない。どうなったって。

「だったら何だ」

「あ、の…」

だが、だったら何を確かめたいのかが分からなくて、二の次が詰まってしまう。
彼はまだ瞳に疑問を浮かべたまま、こちらを見つめていたから、困惑しきった顔を隠す為、利き手で額を覆う。

「っ…そのキスマーク…、誰にもばれなかったんですか」

「言いたいことがあるならはっきり言え」

「貴方の、奥さんに…」

自分でも自分の首を絞めているみたいだ、と思う。
こんなにも張り裂けそうに痛むのは、未来を予測できるからだ。
奥さんの話を切り出されて、迷惑がらない男なんていない。
気軽なセックスが、これでは確信的なものになってしまうから。

(俺は何を…)

「奥さん?」

「ば、れなかったんですか…?」

「何を、言ってるんだ」

「何って…」

自分でだって分からなくなっていた。
貴方を独り占めにしたい気持ちを、抑えているのが限界で。
でもきっと、そんな気持ちを伝えれば捨てられてしまうのは自分の方だと分かりきっているのに。

(こうなるとワガママになるって、本当だな…)

 いつかの誰かの言葉が心によみがえる。
墓穴そのものの状況に、涙さえ出せなくて彼の瞳をただ見つめた。
全部伝えるように、彼の顔を見つめる。
もうこうして見つめられないかも知れない、と考えると胸が痛んだ。


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