陽だまりの詩 13-4
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どうにもあの小僧はへたれてやがる。
まったくわけのわからんガキだぜ。
俺に立ち向かったときの、あの芯のある目はしていなかった。
かと言って、ここで俺がでしゃばっても何の意味もねえ。
いや、やっぱり首突っ込みてえ。
ったく、なんで俺が奏に付きまとう男の擁護してやらなきゃいかんのかね。
そんなことを考えながら、俺は病室の扉をノックする。
「どうぞ」
中からは元気そうな少女の声。
扉を開けると、ひどく驚いた顔があった。
「え…?」
「どうも、奏の父親…です」
初対面だし、しょうがねえから敬語を使ってやる。
「あ、奏の…初めまして、天道美沙です」
「突然すまないね、ちょっと君に話を聞きたくて」
「…どうぞ、座ってください」
やっぱり小僧に話を聞いているんだろう。
明らかに警戒してやがる。
「これ、よかったら兄妹で食ってくれ」
なんとなく用意したケーキを渡す。
敬語はもう限界だった。
「あ!ありがとうございます!」
ちくしょー、そんなに嬉しかったのか?
可愛い笑顔しやがって。
俺も食いたかったのによ。
俺は折りたたみ椅子に座って妹と向かい合う。
落ち着かねえなまったく。
「……早速だけどな、あいつらどうしたんだ?お互い嫌われたと思い込んでるみたいだけどよ」
「……えっと」
なんか言い倦ねてるな。
俺に言ったらまずいことでもあんのか?
「怒らねーから、言ってくれ」
俺がそう言うと、妹は決心したのか警戒しながらも口を開いた。
「……奏が兄貴にキスしようとして、それを断ったみたいです」
ななななな、なぁにぃー!?
奏がキスしようとしただとおおお!?
予想外だ、予想外過ぎる。
って、あの小僧、断っただとおおお!?
「は、ははは、で、それで?」
俺が引きつった笑いを見せると、妹は苦笑いした。
「兄貴と奏はリハビリが終わったら付き合う約束をしたことは知ってますよね」
「ああ」
断じて認めてないがな。
「それで兄貴が約束を守ってキスを断ったら、奏が嫌われたと勘違いしたみたいで」
そういうことか。
「……で、小僧も断ったから奏に嫌われたんじゃないかと思ってんだな」
「…おそらく」
どんだけ噛み合わねーんだこいつら…