アンコンプレックス(前半)-2
――3ヶ月前
新しいクラスになって1週間。
わたしは山田を避けていた。
それは、クラスメイトに身長差をからかわれるのが嫌だったから。
その時のわたしは、今よりももっと身長の低さをコンプレックスに感じていた。
今更、それはどうにもならないと分かってはいたけれど、やっぱりからかわれる度に辛い気持ちになってしまう。
だから、からかわれるキッカケを作らないように山田を避けた。
山田も気づいていたのか、彼は、わたしに話しかけることはなかった。
わたしは、このまま1年が過ぎればいいと思っていた。
山田のことも、知らないままで良いと思っていた。
――だけど、あの日、わたしは気付いてしまったんだ。
委員会で遅くなって、教室に戻ってみると、電気のついていない教室は、夕日で赤く染まってる。
“遅くなっちゃった…。”
いつもとは違う静かな雰囲気が、机まで歩くスピードを速くさせる。
“早く帰ろ。”
鞄をつかんで、教室を出ようとすると、廊下が賑やかな事に気付く。
「山田はほんと背が高いよなー。」
「バスケもうめーし、背もたけーし、顔も良いし、そりゃ女子にモテるわな。」
「お前、それ妬みにしか聞こえねーよ。」
“隣のクラスの男子だ…。
山田のこと噂してる…。”
わたしは廊下に出るタイミングを失った。
盗み聞きをしたわけではないけれど気まずい。
「まぁでも、ぶっちゃけ、あそこまで背が高いと引くって女子も言ってたし。」
「そうそう、それにアイツ頭の中身無いじゃん。
いつもヘラヘラしててさ、頭も悪いらしいし。」
「背が高くたって中身があれじゃあなー。」
バカみたいに大声で笑って話す男子たちに、わたしはだんだん腹が立ってきた。
身長が高いのは生まれつきで、そのせいでどうして山田がそこまで言われなきゃならないのか。
身長の事をコンプレックスに感じているわたしには、人事ではなかった。
「あー俺、身長人並みだけど、バカじゃなくて良かったー。」
その言葉を聞いた瞬間、わたしの中で何かが弾けた。
『ちょっと…!!「あれぇ〜斎藤!お疲れー!」
階段を上がって向こうからやってきたのは、山田だった。
山田はわたしの言葉を遮り、ニコニコしながら、噂をしていた男子たちに声をかけた。
「お、おう!山田、部活は?」
「今日は早く終わってさ。ラッキー♪ってな。」
男子たちの顔はひきつっている。
バレていないだろうかと焦った表情。
だけど、山田はそれに気付いてないのか、いつも通り。