【笹原義弘】-5
翌朝。
やっぱり昨日のことが頭から離れず、なかなか寝付けず朝の7時半には会社に着いた。
まだ、俺しか秘書課にはいなかった。
「ふぅっ…」
席について、ため息をついたとき。
秘書課のドアが開く。
「笹原君…早いのね」
坂下さんだった。
ボタンの部分にフリルのついた白いシャツに、黒いタイトスカート。
黒いストッキングにドキッとさせられる。
「…おはようございます」
――朝から何考えてんだ、俺は…
目をそらして、パソコンの電源をつける。
「笹原君、話があるの」
「…?!」
坂下さんは俺の席までやってきて、みのりの席に座る。
「なん…ですか…」
「話さなきゃいけないことがあるの」
「坂下さん…俺、何するかわかんないんですよ…?!」
もう傷つけたくない。自分だけの感情で。
だから、近づかないでください――
「話を聞いて。わたしは、笹原君のこと信じてる」
「信じてる、なんて言うな!!」
「きゃ…!!」
無我夢中だった。
俺は坂下さんを抱き寄せて唇をふさいでた。
信じてる、だって?
こんなことしてもまだ信じてるって言えるのか…?
唇を離しても、坂下さんは俺を見てた。
真っ直ぐな目で――
「やめなさい…笹原君。自分で自分を傷つけないで」
――何もかも、見透かされてる。
「話を聞いて。人が来ないうちに」
「わかりました…」
俺は坂下さんの体から離れて、椅子に深々と座った。
心臓が破けてしまうんじゃないかというほどに、胸が痛い。
他の人のものだと、わかっているのに…
坂下さんの方を、見ると。
俺をじっと見つめてくれていた。
「信じてる」って顔で。
やっぱり、そんな坂下さんだからこそ好きになったんだと思う。
だけど俺は、坂下さんだけじゃなくて、みのりまで傷つけた――