奴隷じゃんけん-1
「ほらっ、手ぇ出して。じゃーんけーん…」
嫌々右手を出す。
「ほいっ」
オレはパーを出した。
「私の勝ち〜」
うれしそうに笑う女。毎日繰り返される光景。
これが幸せなのか、不幸せなのか、最近それすらわからなくなってきた。
奴隷じゃんけん
オレは親父と二人暮らし。母親は数年前に交通事故で死んで、保険金で今はゆるゆる生活している。
親父は普通に公務員をしている。たった二人でこのマンションの一室に住むのは広すぎる。
半年前、隣りの部屋に大学生が引っ越してきた。綺麗なお姉さんって感じで、正直一目惚れした。高校生のオレはまだ女性と付き合ったこともなく、まともに話しかけることすらできなかった。
三ヵ月前、休日に親父がゴルフに行ったとき、お姉さんが家にきた。真っ昼間だっていうのにすごく酒臭く、かなり飲んでるなってわかった。
まぁでもきてくれたのがうれしかったし、ちょっとテンションあがった。
酒のつまみを出したりして適当に応対していたら、お姉さんが話しだした。
べろんべろんに酔ってて、なに言ってるか時々わからなかったけど、要するに彼氏にフラれたらしい。それもゴミクズのように(お姉さん主観)。
すこし悲しくなって、すこしその彼氏に怒りを覚えて、ポロッと言った。
「その人、見る目ないんすね。お姉さん、すっごい綺麗なのに」
これが失敗だった。
お姉さんはさきいかを加えながら言った。
「ねぇ、じゃんけんしよ?」
特に理由も聞かずオレは手を出した。もし時間を戻せるならそのときのオレに飛び蹴りでもかますところだ。
「やったー、私の勝ち〜」
するとお姉さんはオレに近付き、
「じゃあ、負けたからキミは私の奴隷ね」
とかぬかしやがった。
オレは抵抗した。
「嫌ですよ!!!つーかそんなん先に…」
不意に唇を奪われ、そして、
「じゃあ明日もじゃんけんしてあげるから、今日は我慢ね?」
童貞まで奪われた。
「じゃあ今日は、……とりあえず私の部屋でご飯作って?」
あれから三ヵ月か。オレはほぼ毎日、あいても一日置きくらいで、この『奴隷じゃんけん』をやらされている。
オレが負けると、だいたいが部屋の掃除だのご飯の準備だの。
たまに背中流せだの夜一緒に寝ろだの、その用途は多岐に渡っている。
親父に相談すると、
『オレもお前も、女の尻に敷かれるタイプだからな』
って笑ってた。
尻に敷かれる?冗談じゃない。
「飯か、何作ればいい?」
「あるもので作って」
最近では敬語すら使ってない。敬語ってのは尊敬してる人に使えばいいんだ。この女に使う必要は一切ない。
国語教師に言ったら説教されそうだな。
とりあえず冷蔵庫を開ける。つーかなんにもねぇし。辛うじて作れる程度だな。米は炊いてるみたいだしな。