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Not melody from you
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Not melody from you
:Side-heavy
-6

「当てようか?」私はイタズラっぼく笑いながら言った。
「トトロの樹でしょ」
「正解」
彼も柔らかく笑った。
「名前を付けたのはぼくなんだ。その頃に見た『隣のトトロ』に出てくる樹にそっくりな気がしたんだよ。ほら、トトロが樹の上でオカリナを吹いてるやつ」
私はまた樹を見上げて、灰色でフワフワでふとっちょの森の精霊がその枝の上で、ポー、ポー、とオカリナを吹いてる姿を想像した。
それは微笑ましい程にぴったりで、目の付け所が無いほどに何ら遜色なかった。
「確かに、そっくりだね」
「だろ?」
「そしてそれがトトロの森の名前の由来?」
「その通り」
「じゃあこの森にトトロの森って付けられた原因も君って事になるんだ」
「頭が回るな、君は」
単純な理由さ。そう言って彼は今度は照れくさそうに笑った。
「でも後々になってから調べてみて、この樹は本当にトトロの樹だった事が分かったんだよ」
「え?この森がモデルだったの?」
私は驚いた。それならもう少しこの森や周囲の村に、人が集まってきそうなものだが。
それを聞いて彼は苦笑しながら、違う違う、と手を振った。
「ごめんごめん、そうじゃないんだ。この木は『クスノキ』っていう種類の樹なんだ。そしてトトロの劇中に出て来た樹も、同じように『クスノキ』だったんだよ」
「ああ、そういう事ね」
自分の勘違いに、私は彼と同じように苦笑した。
そうか、この樹はクスノキというのか。
語感が爽やかで力強くて、この木によく似合っている。
神話に出てきた樹、あれは確かユグドラシルと言っただろうか。
そういう厳かな名前よりクスノキの方がどこか謙虚で、身近に、親しみやすく感じる。
普段物覚えはあまり良くない私だが、この名前だけは忘れないような気がした。
無論、トトロの樹という名前も。
「ぼくはもう少し森の奥に行ってくるけど君はどうする? 疲れてない?」
私が教えてもらった名前を頭の中で反芻していると、彼は私を気遣うようにそう言った。
「あ、私はいいよ。疲れてはいないけど、もうちょっとこの樹を見てたいから」
「そう、分かった」
彼はブラブラと森の奥へ歩いて行った。
1人になった私は大樹に寄り掛かって、清廉な静けさの中で唯一空気を揺らす木々の葉のかすれる音に耳をすませた。
緩い風が吹いて葉が少しだけ揺れて、しばらくしてそれが止まるとまた緩い風が吹いて。
それはどこか血を体内に送り続ける心臓の音にも似ていた。
その無限に単調にループされる音は私の瞼を重くし、眠気を誘った。
大樹を背にして座り、私は目を閉じた。
木々の微かなざわめきが、反響音のように、頭の中で徐々にフェードアウトしていく。
背中の大樹の感触は、どこか彼の背中に似ていた。



ーー起きてーー
彼が私に呼び掛ける声で私は目を覚ました。
瞼を開けると木漏れ日が寝ぼけ眼に眩しくて、私は手を日傘にして彼の顔を見返した。
「寝ちゃった?」
彼は微笑みながら私を覗き込んでいた。
「うん…ごめん…」
私はそう言い、残ったまどろみを消す為に立ち上がってお尻の土を落とし、背伸びをした。
まだ木漏れ日の色が変わらない所を見ると、私が寝ていた時間はそう長い事はないようだった。
「ごめんね、びっくりしたでしょ? 帰って来たら寝てて」
「ううん、気持ちは分かるよ。眠くなるよね、ここは」
彼はそう言って私の背中に付いた樹の皮のかけらを、手でサッサッと取り払ってくれた。


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