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Not melody from you
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Not melody from you
:Side-right
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数十分後。
まぁ、言うまでもないというか、案の定というか、お約束というか。
結果として、今夜の献立はオムライスとコンソメスープから、チキンライスとコンソメスープになった。
卵の殻の耐久力を知らず、火加減は強い程良いと思い込んでいたおれにとって、卵を焼く事はただ鶏の赤ん坊の命を無駄にする事に他ならなかった。
そう思ってしまう程、フライパンの中は散々なものだったのだ。
ひよこに成り損ねた白身と黄身は、今や見る影なしの消し炭と化している。
きっと三ツ星レストランシェフも呆れている事だろう。
それ以上に呆れているのが、彼女だった。
「あんた、もう台所立ち入り禁止」
彼女はそう言っておれを押しのけると、おれが卵と格闘している間に切った野菜やら鶏肉やらをケチャップとご飯と共に炒め、実に上手にチキンライスを作り上げてしまった。
まるで目の前で種の分からない手品が行われた時のように、おれはそれに感嘆した。
同じ人間なのに、どうしてこうも違うのだろう。
料理の実力差がメジャーリーガーとグローブを買ってもらったばかりの幼稚園児並だ。
才能うんぬんではなく、おれは料理を司る脳の部分がごっそり障害を起こしているのではないだろうか。
そう思いながらばらばらになった卵の殻を見ると、なんだか結構、がっくりときた。
「お皿、出してよ」
彼女がそう言うのでおれは大きめの皿とスープ用の皿を二つずつ出して彼女の横に置いた、彼女はそれにちゃちゃっと料理を盛り付けた。
料理上手な人は盛り付けも手際がよいもので、それを見てますますへこんだ。
そんなおれを尻目に、大きめのおぼんを持ってきた彼女はそれに料理の皿を乗せると、居間まで運んでいった。
「ほらご飯。早く来て」
「…はい」
彼女に呼ばれて、おれは彼女の対面の椅子に腰掛けた。
「それじゃ、いただきます」
「…いただきます」
沈んだ面持ちでコンソメスープに口をつける。
コンソメスープと言えばシンプルなもので、大抵誰が作っても味は大して変わらないものだが、彼女は何か隠し味を入れてあるらしく、味は一般のものと少し違った。
そしてそれはいつも通り、やっぱり美味しい。
だがその美味しさが、今は何だか無性に情けない。
こんな事なら学生時代にせめて卵が焼ける位には料理を練習しておくべきだった。
あの時住んでいたアパートの近くに食べ物が売っていなければ、と行きつけだったファミレスとコンビニに八つ当たりしながら、おれは今度はオムライスに成り損ねたチキンライスをスプーンで口に運んだ。
瞬間、口に広がる若干の苦味。
自分の舌がおかしくなったのかと思い、水を飲んでもう一口食べてみる。やっぱり少し苦い。
不審に思うおれの眉の寄った顔を見たのか、彼女は不機嫌そうに言った。
「失敗したのよ」
「え?」
おれは声を上げて驚いた。
彼女が料理を失敗するのを、今だかつて見た事がなかった。
「どうして」
「あんたが珍しく手伝うなんて言うから、いつもより美味しくしようとして、失敗したの」
でももったいないから全部食べてよね。彼女はそう言って尚も少し苦いチキンライスを口に運び続ける。
その仕草は何だか素直に謝れない子供のようで、おれの口からは思わぬ言葉が出てしまった。
「…可愛いー…」
「うるさい!」
彼女にそう一喝され、おれは自分でもかなり恥ずかしい事を言った事に気が付いた。
慌てて手で口を塞ぐ。


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