やっぱすっきゃねん!UG-7
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昼の 3時とはいえ、12月半ばでは陽は早くも傾きつつある。
「お〜い!ちょっと待ってくれ」
呼ぶ声に歩みを止める佳代。 見ると稲森が走り寄って来た。
彼女はたくさんの荷物を自転車に積み、いつものように直也と共に正門に向かっていた。
その姿を不思議な顔で見つめる佳代。
「どうかしたの?」
稲森は息を切らせている。
「…お、オマエに…謝ろうと思って…」
「…謝るぅ…?」
すっとんきょうな声を挙げる佳代。
「…その…シート打撃の前に、色々言っただろ。 …こう言っちゃ何だが、あんなに打たれるなんて思ってもみなかった。 オマエの力を見くびっていた、スマン…」
深々と頭を下げる稲森。 コイツもスポーツマンだ。 キチンと自分の非は認める。
佳代は手を振って気にした様子も無い。
「それより感心してたよ。 こっちに来て 1週間足らず、全く投げ込みしてないのにあれだけのボール投げられるのかって…」
「…ほ、本当か?」
「うん、藤野コーチが言ってた。 鍛えれば直也と淳に加えてピッチャーが 3人になるって…」
直也も話の間に入る。
「オレと淳は右利きだから、左のオマエが加えば凄い戦力アップになるよ」
「オマエら…」
稲森は 2人の言葉を聞いて一瞬、嬉しそうな表情をしたが、すぐに顔を曇らせた。
俯き、身体を震わせ思いを口にする。
「…実はオレ、明林中でピッチャーやってたけど…エースじゃなくて 3番手だったんだ…」
本当の自分を晒した稲森。 だが、直也も佳代もそれを笑い飛ばした。
「ハハッ!オレなんか 4番手だったぞ。 ひとつ上の兄貴はキャプテンで絶対的なエースだったし、他にも凄い先輩が 2人いたんだ」
「私なんか今年の地区予選までレギュラーだったけど、色々あって、今は 1年生と同じ扱いなんだから…」
そう言って再び笑うと稲森を見た。
「だからさ、終わった事はもういいから、これから一緒に頑張ろうよ」
佳代は右手を差し出す。
「…スマン。 こっちこそ、よろしくな…」
稲森は佳代の手を握った。
「オレも良いか?」
直也も右手を差し出す。 〈もちろん〉と言って握り返す稲森。
こうして、青葉中野球部に、またひとり戦力が加わった。
冬空の陽は傾き、景色は青色から燃えるような黄金へとに変わっていた。
…「やっぱすっきゃねん!?」?完…