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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!UG-6

「そんなバカな!」

 自分の決め球を打たれ、稲森はショックを受ける。

(…右ならまだしも、左に…しかも女に… )

 打球の行方を見つめる稲森の肩は、心無しか震えている。 しかし、打った佳代も驚いていた。

(…まさか、打てるなんて…)

 自身、秋季大会で見た信也の打ち方を真似してカーブを狙ったとはいえ、上手くヒットになるとは思ってもみなかった。

 だが、ひとり一哉だけは納得していた。

(…たった 1球見ただけで反応出来るとは… )

 改めて佳代の才能を認めていた。

(シングル・ヒットなら使えるな)

 山下は打球の勢いや方向を見て、スローカーブが充分実戦で使えると確認していた。

  2打席目。 今度はフォークボールを使おうと、内角低目のストレートを要求する。

(…さっきのはまぐれ当たりだ。 今度こそ仕留めてやる )

 だが、その初球。 ボールが少し甘くなった。 佳代は見逃す事なく強く振り抜き、ライトのライン際に速い打球を飛ばした。

(…ま、また…… )

 女相手に 2打席連続で打たれ、しかも、男子並みの打球の速さに驚きと悔しさが入り混じる。

 もはや全国大会で優勝したというプライドなど無かった。


 それをグランド隅で見ていた直也は違う思いだった。

( 1週間近く投げ込んで無くて、あれだけキレのあるボールが投げられるなんて… )

 さすがに明林中のピッチャーだ。 直也は稲森が加われば、さらにピッチャーがレベルアップすると思った。

 結局、佳代は 6打席打たせてもらったが、最後の打席でストレートをセンター前にヒットしただけで、途中の 3打席は三振 1回、内野ゴロ 2回に終わった。




───


「よく、あのカーブが打てたわね」

 佳代は葛城と一緒に着替えていた。

 練習を終えると、 2年生はグランド整備、 1年生はボール磨きと、それぞれ明日に備えて後片ずけをこなしてから列に並び、永井や一哉、葛城達指導者の注意事項を聞いて解散となる。

「あれは、秋季大会で同じような球を投げるピッチャーを、先輩がヒット打った時の打ち方を真似したんです。 正直、打てるなんて思ってもみなかった…」

 佳代はニッと笑うと、ペロリと舌を出す。

「それが出来るだけでも大したモノよ。 ここ 3ヶ月以上、ピッチャーの球は打って無いでしょ?」

「…そうですね。  9月半ばから素振りばかりだから…」

 着替え終えた佳代と葛城は保健室を出た。

「じゃあコーチ、お先に失礼します!」

 佳代は葛城に頭を下げる。

「お疲れさま。 気をつけてね」

 葛城は目を細めて佳代が駆けて行く後姿を見つめていたが、やがて永井達の待つ職員室へと向かった。


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