やっぱすっきゃねん!UG-5
「うわっ!」
思わず身を引き避けようとする。 すると、ボールは斜めに滑り落ち、山下のミットに収まった。
「ボールッ」
一哉の右手が上がらない。 どうやら低過ぎたようだ。
(…なんだ…あのカーブ… )
2球目は外の低目へ速い球。 佳代はバットに当てたが、打球は左に逸れた。
(へぇ、当てたよ… )
驚く稲森。
佳代は打席を外すと、 2度素振りをする。
(…あのカーブは曲者だ。 狙いを真っ直ぐに絞って… )
その時、以前一哉から教えられた事を思い出した。
〈そのピッチャーを潰すには、ソイツの決め球を打つんだ〉
(ヨシッ!あのカーブを狙ってみよう )
佳代は腹を決めて打席に戻った。
3球目も外角低目のストレート。 一哉の右手が上がる。
(…おかしいな。 今度は乗ってこない )
山下は返球しながら佳代の動作を見た。 だが、そこからは何も分からなかった。
(ヨシッ、ここで行こう )
4球目は胸元の速い球。 佳代は一瞬反応してから動きを止めた。 この時、山下には何を狙っているのか分かった。
だが、
(…まぁ、アイツの決め球がどの程度か見極める良い機会だ )
そう思ってカーブのサインを出す。 稲森も決める場面と考えたのか、サインに大きく頷いた。
狭いスタンスで構える佳代。 両足をプレートに乗せ、稲森は両手を上げた。
両手を胸元に下げ、右足を胸につくほど上げて上体を折り曲げる。
佳代は右足を後に引き、さらに狭いスタンスでタイミングを取る。
稲森が屈めた身体を開放させ、右足を大きくステップさせた。 佳代も合わせるように、右足を大きく前に踏み出す。
稲森の左腕が振り抜かれる。 振りよりも遅い感じでボールは佳代の顔面へと飛んで来た。
(…クッ… )
恐怖心が先立つのを必死に堪え、ボールを見つめる佳代。 やがて斜めに滑り落ちだした。
(…ここっ! )
佳代はボールに合わせるように身体を開かずにバットを振った。 〈キィンッ!〉という打球音を残し、ボールはライナーでレフト前に落ちた。