やっぱすっきゃねん!UG-2
「じゃあ、お疲れ!」
部室へ向かう部員達の横を、佳代は校舎へ向かって走って行く。 部員達も〈お疲れさん〉と、後姿に声を掛ける。
「アイツ、ユニフォーム着たまま何処に行くんだ?」
不思議に思った稲森が直也に訊いた。
「保健室さ。 男ばかりの部室で一緒に着替えるわけにはいかないだろ」
「なるほど…」
そんな稲森に今度は橋本が声を掛けた。
「どうだった朝練は?明林中と比べて楽だったか…」
「まぁ、同じくらいかな…」
実際は、あまりのキツさに驚いた稲森。 だが、プライドがそうは言わせない。
すると山下が会話に加わった。
「言っとくが夕方は倍以上キツいぞ。 それに土、日は朝 9時から昼 3時までぶっ続けだから」
「続けてって…昼休みは無いのか?」
「ああ、わずかな休憩中に水分補給とバナナを食うだけだ」
稲森は、ただ驚きの表情を浮かべるだけだった。
───
その日から稲森の中で何かが変わった。 必死に皆の練習に付いて行こうとする。
明林中野球部というプライドが身体を動かしていた。
その姿を見た直也や山下の部員達、それに永井や葛城も、少しづつ稲森という存在を認めつつあった。
───
そうして、入部テスト最終日である日曜日を迎えた。
永井のとなりには、ひとりの見慣れない男が立っていた。
「臨時コーチの藤野一哉さんだ」
その瞬間、稲森の身体が固まった。
「…ふ、藤野一哉って…たしか10年くらい前、全国大会の決勝でパーフェクト出したっていう……」
「…まぁ…そうだったかな…」
一哉は稲森に笑顔を向ける。
「ところで稲森。 明林中でピッチング練習はやってたのか?」
一哉に話掛けられ、稲森は緊張の面持ちで答える。