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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第4話-1

まさか、おとぎ話で僕がしようとしていた事を、現実世界でしようとする奴がいるなんて…。
いや、あんな風に本人の同意なしで行うつもりはないのだが。

僕から少し離れて座る彼女は、青ざめ表情を失ったまま、駅員に手渡されたコーヒーの紙コップを両手で包み、微かに震えていた。

そりゃそうだろう。連日報じられる物騒な出来事にまさか、自分が巻き込まれるなんて思いもしなかったはずだ。

怪我が無いながらも、ショック覚めやらぬ様子の彼女を、周りを取り巻く女の子二人が気遣っている。

僕は…といえば、あまりに非現実的な出来事に、未だ自分のした事をどこか他人ごとのように感じていた。

ハサミの男に体当たりを喰らわせ、男ともども電車の床に倒れこんだ。
自らに可否を問う間もなく。
彼女を守るために。


正直、これまでの『僕』のキャラクターとはまるきり違う行動が、僕をひどく現実から掛け離れた気分にさせていた。

警官が来て、ひととおりの事情聴取を受けながらも、まるで傍から見ていた事を話しているような、不思議な感覚。

「些か無茶だが、無傷でよかった。しかもお手柄だったよ。」
「……はぁ…」
「最近電車内で刃物による切り裂き被害の届け出が多数報告されてたんだ」
駅員が話すのを、コーヒーを啜りながら、適当な相槌をまじえ、ぼんやりと聞いていた。

どこからか記者が来て、翌朝の新聞に載せるとカメラを向けられた時は、さすがに固辞し、更に学校と名前を伏せるように念を押す。
なんでもお祭り騒ぎに替えようとする無神経さにムカムカしながら。


新聞記者を牽制しながら、僕が彼女の様子をそっと窺っていた時。
「千紗!」
駅員室の入口からの声に、彼女の瞳が微かに揺れた。彼女の友達が『お姉さん』と呟くのへ、僕は声のするほうに視線を移すと、黒髪の女の子が息を切らしながら駅員室に入ってきたところだった。
駅員と警官に一礼し、彼女の姉である事を告げると、彼女の側に駆け寄った。

「連絡を受けてびっくりしたわ。お友達も大丈夫だった?」
一斉に頷く女の子。彼女は相変わらず無言のままだ。
彼女たちの無事を確認した『お姉さん』が僕の方に駆け寄ってきて、僕は慌てて席を立つ。
「千紗の姉です」
「あ…っ、津田です」

「津田さんもお怪我はありませんでしたか?」
「い…いえ、どこも何も」
僕の肩くらいまでしかない小柄なその人が、心配そうに見上げる瞳は、吸い寄せられそうなくらいに黒い。
思わずしどろもどろになるくらいに。

『お姉さん』は僕の無事を確認すると、ふわりと温かい安堵の微笑みを浮かべ、
「津田さんのおかげで千紗が無事でした。本当にありがとうございました」

と顎より少し下で切り揃えた黒髪を揺らしながら、僕に頭を深々とさげたのだった。


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