陽だまりの詩 12-6
「……奏」
「……春陽さん」
俺は自然に奏の手を握った。
奏の鼓動が聞こえる気がする。
「……キス、できそうな距離ですね」
「……っ」
どうやら考えていたことは同じらしい。
いい…のか?
体が火照って、奏と触れ合いたい衝動が一気に加速する。
「…陽、さん」
奏がかすれた声で俺の名を呼ぶと、ゆっくりと顔を近付けてくる。
「……」
互いの吐息がかかりそうな距離まで近付いた瞬間だった。
奏のお父さんの顔が頭をよぎる。
そしてその後に頭の中に現れたのは、美沙の顔だった。
「奏、待ってくれ」
「……」
直前でピタリと奏が止まる。
「その…なんだ、まだ俺たち付き合ってないし…ちゃんと奏がリハビリを終えてからにしよう」
「……」
なんだかひどく驚いた顔をする奏。
「そりゃ俺だってしたいけどな」
俺は笑ってゆっくりと立ち上がる。
「トイレ行ってくる」
「……」
奏は無言で固まったままだった。
トイレから出ると、何度も何度もタオルを冷水に浸しては搾る奏の姿があった。
「……奏?」
「……」
その瞳には、涙が溜まっているように見えた。
「ただいまー」
両手いっぱいに袋を持って美沙が帰宅した。
相変わらずすごいタイミングだ。
体のどこかに盗聴器でも仕掛けられてたりして。
「おかえり、ありがとうな」
「あれ兄貴、起きたんだ」
「ああ」
「体が火照ったとかいうくだらない理由で奏に迫ってないでしょうね」
……危なかった。
「奏、留守番ありがとうね」
美沙は冷蔵庫に食材を詰めながら言った。
「……いえ」
「……」
「美沙ちゃん、そろそろ帰りましょうか」
「え?あ、うん」
美沙は目を丸くして驚いていた。
奏…
なにか怒らせたか?