やっぱすっきゃねん!UF-1
「ランニング行くぞーーっ!」
ユニフォーム姿の葛城の前に、部員達が整列した。
1、2年生部員達が一斉にグランドを走り始める。 葛城はトレーニング方法が気になった。
「監督。 彼等はどの位で回るんです? 」
永井が即座に答える。
「 1周 500メートルを 1分半前後で朝 5周、夕方10周。 もっとも、ピッチャーはプラス10周は走ってますが…」
「…と、言う事はピッチャーは 1日10キロ以上を走っていると…」
「まぁ、そうですね」
永井は、さも当然といった表情で言った。 それを聞いて思わず目を丸くする葛城。 10年ほど前まで大学の男子野球部の連中がやっていた長距離トレーニングを、今や中学生がやっているという事実に。
「この長距離トレーニングは監督が取り入れられたんですか? 」
「…いえ、これは臨時コーチの藤野さんの指導です。 以前は半分くらいの距離でした」
「…藤野さんって、ここの出身で甲子園で活躍された?」
「ええ…」
葛城は藤野より 3歳年上だが、大学当時、ピッチャーなら誰もが目標としていた。 その指導という。
葛城は藤野という人物に興味を持った。
「ちょっと失礼…」
永井は一旦その場を離れると、走る部員達のそばに寄り声を掛ける。
「ラストッ!」
途端に部員達のスピードがアップした。 葛城も部員達に目をやるが、その視線の先は佳代を見つめていた。
佳代のポジションがぐんぐん上がる。
長距離トレーニングにも慣れたのか、以前は最高尾が定位置だったのが、持ち前のスピードを生かして中団より前を走っている。
「…たいしたモンですねぇ…」
葛城は感嘆の声を漏らす。 永井はそれを聞き漏らさなかった。
「何がです?」
「澤田さんです。 彼女を見てると、自分の高校の頃を思い出します。 もっとも、あんなに真剣じゃなかったですけど…」
笑顔で答える葛城に対し、永井は佳代の走る姿を見ながら言った。
「…私も男子に混じってよくやってると思います。 ですが、藤野さんに言わせれば、カヨは、まだ真剣さが足りないそうですよ」
「真剣さが足りない…?」
(男子でもキツイ練習をこなしてるのに… )
益々、藤野という存在に興味を持つ葛城だった。