君を好きになりました。-1
─ああ〜たりー…
俺、電車のイスに腰をおろし大きくため息をついた。
背もたれに両腕を広げ、大の字の様に座り、裕に三人分を分捕った。
誰もが目を伏せ、俺と目を合わすことを避ける。
金髪の頭、耳の数個のピアス、この春休みの間に開けた鼻ピアス…
―俺、かっこいい!!
俺、鼻ピアスをちょんとつついて広げた足の右を左の上に置いた。
―…ったく、かっこいい俺様が何で留年だ!!あのクソ学校なんて絶対辞めてやる!!
そう、新学期が始まった今日、俺はもう一年高一をやらなければならない事実を知ったのだ。
―だいだいよー補講とか再テストとかするだろ!?
って、本当は春休み中担任が家に電話してきたりわざわざ出向いてきたりしてた。
俺、マジうぜーから友達の家に行ってたり、居留守使ったりしてて本気で留年するなんて思ってなかった。
―マジで明日辞めてやる!!
そう決意した時、電車が止まり戸が開いた。俺が乗る駅の隣の駅。この駅の近くに香山女子学院があり、そこの生徒だろう女が俺の真正面に座った。
制服が新しいということで、一年だと分かる。髪は肩にやっと届いており、柔らかそうに揺れている。俺の頭の色とは対照に真っ黒で、肌の白さを強調させている。
その女、きちんと足を揃えて座り淡々と鞄から本を出し読み始めた。
俺のことなんか目にも入っていない様な姿、何だか苛つく。
―ったく、お嬢がよ!!泣かせてやろうか
俺の視線にも気づかず本を読み続ける姿に、一瞬、見とれた…
―…キレー…
はっ
―なっ、何考えてんだ!!俺!!何だよあんな女、まじめなお嬢じゃん…
俺、そらした顔のまま視線だけを女に戻した。
相変わらず姿勢よく本を読む姿…
―俺みたいなバカは相手にしないんだろうな…
はっ
―だからっっ何考えてんだ!!俺!!
気づくと次の駅に着いていて、何か急に込んできた。ばーさんが杖をつきながら座る場所を探してる。俺、そのばーさんを見ないように自分の場所を少し拡大した。
「あなたが避ければまだ座れるでしょ」
突然、頭の上から声がした。
あの女だ。
あの女が俺の前に立ち、俺を真っ直ぐ見おろしている。
「あ、ああ…」
俺、思わず広げていた手足を戻し深く座り直した。
女はばーさんを座らせると、今まで座っていた小さな隙間に腰を下ろし、また、本を出すと何事もなかったように読みだした。
「ありがと」
ばーさんが俺の横でにっこり笑う。
―…ったく
俺、驚いていた。あの女が俺に対して言ったということよりも、俺の想像していた通りの澄んだ迷いのない声に……
―俺、何かヤバイ…絶対おかしい…何か変…
あの女から目が離せなくなっていた…
―どこで降りるのかな?…あれ?もしかして俺、学校辞めなきゃ毎日会えるんじゃん?……おおーー俺、頭よくねー?そうか、学校辞めなきゃいいんじゃん!!
そんなこと考えてたら降りる駅に着いていた。
―ったく、着くのはえーよ…
!!
降りる為に立ち上がった俺と同時にあの女も立ち上がった。
てことは…そう、降りる駅が同じだったのだ。
―運命だろこれ!?俺、マジヤバイんだけど…
そんなこと思い終わらないうちに俺の手はその女の肩に置かれていた。
「何ですか」
!!
俺、女の声で我に返った。
「あっ、高山健吾(たかやまけんご)です。これから遊びにでも行きませんか?」
―うおおおぉぉぉーー、違う違う!!これじゃまるきりナンパじゃん!!俺バカ俺バカ!!
「行きません」
―…いい声だな…
はっ
―違ーう!!
「いや、ごめん、ナンパじゃないんだ。マジでその…」
俺、今ごろになって緊張してきた。ドキドキが止まらない。俺を真っ直ぐ見つめる女のきれいな目、頭がボーとして吸い込まれそうだ。
「私、金髪もピアスも嫌いです」
言い終わると振り向くことなくきれいな髪を揺らしながら改札から出ていった。俺、清楚な後ろ姿を見送ると、足の震えに気がついた。
―初めて本気で告った…つーか振られた?…いや、これから毎日会えるじゃん。明日は名前、聞かなきゃだな…
俺、その場でピアスを全て外し、改札を出て美容室へ足を向けた。あの子と同じ髪の色にするために……