「人外の果て」前編-4
亮は眠そうに目を擦りながら永里子に答えた。
「今日から沙織里学校だろ。 オレ、あと3日間は休みだから、途中までついてってやろうかと……」
「えっ?」
その言葉に、今度は沙織里が驚きの表情を浮かべた。
「…その、初めてって誰でも緊張するモンだろ?だから、誰か一緒にいれば、少しは気が紛れるかなって……」
息子の言葉に永里子は〈へぇ〉と声を挙げると、
「アンタにしちゃ気の利いたこと言ってるわね」
そう言って感心する。 すると、その言葉に気を良くしたのか、亮は得意気に言い放つ。
「…そりゃあ、沙織里には楽しい学校生活を送ってもらいたいからさ…」
「…亮ちゃん…」
自分を気遣ってくれる亮の気持ちが嬉しい沙織里。
「…但し、3日間だけだからな」
亮は照れをごまかすようにそう言うと、席を立って玄関へ向かった。
───
「行ってきま〜す!」
学校へと向かう沙織里。 先ほどまでの不安気な顔は消えていた。 亮がついて行くのは最寄りのバス停までで、時間にして10分ほどだ。
「…ほら」
亮はそう言って右手を差し出した。どうやら手を握ってやると言ってるようだ。
「…いいよ。 そこまでしなくても…」
だが、亮は無視して沙織里の右手を握った。 一瞬、手がビクッと動いたがイヤがる風でもない。 頬を赤らめ、俯いた様はむしろ嬉しそうだ。
そんな仕草を目の辺りにして、亮は益々、沙織里が可愛いらしく思えてしまう。
「寒くないか?」
「…いい…」
亮はかまわず沙織里の身体を引っぱり自分の方へ寄せた。
「きゃっ!」
「ほらっ、こっちの方が歩きやすいだろう」
ぴったりとくっつく身体。 耳まで真っ赤になる沙織里。
もうすぐバス停だという頃には、同じ制服姿の女の子達何人もとすれ違う。
「あと5分ほどで来るみたいだな…」
やがて、周りを同じ制服に囲まれ、亮は変な目で見られていた。
「…まいったな…」
それでも手を離さず握っている亮。 沙織里の汗で掌が濡れてくる。
しばらく待っていると、大きなクラクションをひとつ鳴らしてバスが来た。