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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第3話-1

あの日以来、僕は彼女を毎朝見かけるようになった。…正確に言えば彼女と同じ車両を選んだのだが。
『一歩間違えばストーカー』
と思わなくもないけど。

僕と彼女の距離は相変わらず。
彼女がどこから電車に乗るのか、学年や、名前すら知らないままだ。

だが、それに不満は無かった。
夢の延長のような不可思議さを楽しみたかっただけなのかもしれない。

ただ判ったのは、毎朝読み耽る手元の本が、短い周期で替わる事だけ。
色鮮やかなものや薄いもの、ひどく古びた装丁のそれらに挟むブックマークだけが替わらない事も。

そして、頁に落とす視線はいつも少しばかり不機嫌そうで…。

低血圧なのかな?
朝が辛いっていうよなぁ。
「何か言ったか?」
友達の声に我に還った。
不覚にも独りごとがもれたのかと思いながら、『否』と首を横に振る。

クラブが少しばかり長引いて、いつもより遅い帰路の電車の中、間抜けな独り言を空耳としてやり過ごし、思惑どおり上手くいった。

「今日の練習きつかったよなぁ。途中ハンバーガーショップ寄って行こうぜ?」
既に帰り道の誘いを始めた友人に返事をしかけて僕は言葉を失う。

停車した電車に乗り込んできた隣駅の女子校の制服の一団。
その中に見つけたのだ。

再び電車が動き始める。
「寛?どうした?」
「…いや、なんでもない」
目の端で捉らえたその人は、友達に気付かれずに済んだが、女子校の一団は流石にその目にも留まったようだ。
「隣の女子校のコ達だぜ?そういえば、相澤がコンパするとか言ってたけど、お前も行くだろ?」

ちらちらと友達が一団に視線を投げるのと同様、向こうからも似たようなものが投げかけられているのを背中越しに感じる。

「いや、誘われたけど行かない」
すっかり暗くなった車窓の外を見るようにして答えると、隣から明らかに不服そうな声があがった。

窓に映る彼女はやはり連れ立った女の子達とはどこか違う雰囲気を漂わせている。
その彼女の少し後方に、違和感を感じて僕は振り返った。
女の子達は話に夢中で気付かない。

「寛?…おい!」
僕は走っていた。
同時にがくんと速度を落とした電車に足を捕られそうになる。
ほんの数メートルしかない車両内の距離が、やたら長く感じる。

ギラリ…と車内灯に光るハサミ。
気付いた彼女の瞳が凍り付く。

次の瞬間。

鈍い衝撃。
床に落ちて滑る金属の音。
女の子たちの悲鳴。
僕の名を呼ぶ友達の声。

まるでスローモーションのような感覚で、僕の体が床に転がる。

電車が停車して、ドアが開く音を契機に時間の流れが一気に慌ただしくなる。

「おいっ!寛っ!大丈夫か?」

僕に当て身を食らわされた男は周りの乗客に取り押さえられて駅員室に、僕と友達、彼女とその友達もその駅で降りる羽目になった。


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