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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第2話-1

「ラプンツェル」

昔ある夫婦が待望の子供を授かった。
しかし、食欲を失い日につれて弱っていく妻を見兼ねた夫が、彼女に所望するものを訊ねると、隣家の魔女の庭に生える「チシャ」と答えたのだった。

意を決して盗みに入った夫は、魔女に見つかってしまい、盗んだ罪を生まれてくる子供と引き換えにしてしまう。

約定どおり子供「ラプンツェル」は魔女によって塔に連れ去られた。
その塔には出入口は一つさえなく、ラプンツェルの住まう、てっぺんの部屋の窓があるだけ。
魔女が塔の下から名を呼ぶと、窓から彼女の長い髪が降りてきて、それを梯子がわりに使う仕組みだ。

そんなある日、その一部始終を見ていた王子が、それを倣いラプンツェルと出会い塔からの脱出を夢見るようになる。

しかし、王子との逃避行の為にひそかに編んだイバラの梯子も、突如として無駄に終わってしまう。
魔女に王子との逢瀬が露見したのだ。

魔女の逆鱗に触れたラプンツェルは髪を切られて森へ捨てられ、魔女の罠にかかった王子は光を失ってしまう。

見えない目で森を放浪し、ようやくラプンツェルを見つけた王子は、彼女の涙によって視力を取り戻すと、連れ立って城に帰り、幸せに暮らしたのだった。

これが物語の概要だ。

何度も聞かされて─その度にいらいらしながら―、未だそらんじる事ができるそんな物語りの中の人が何故?

『ちょっと待て。落ち着けよ』

今僕が居る「ここ」が現実なのは間違いない。
僕の夢のラプンツェルは、飽くまで僕の想像の人でしかないわけだから、つまり偶然的な他人の空似という事じゃないか。

…こうして、善くも悪くも早々に現実を把握してしまう性格によって、僕は急速に衝撃から冷静へと立ち返ろうとしていた。

彼女はラプンツェルじゃない。
と結論付けたところで…だ。
『それにしてもよく似ている』
気どられないようにしながら、改めて彼女を見る。

両の肩にさがるみつ編みは腰あたりの長さ。
少しばかりひそめられた眉と、本に視線を落とす眸を縁取る長い睫毛が朝日に透けて金茶色であることから、栗色の髪はもとよりのものと判る。
伏し目がちな瞳も少し色が薄いようだ。

『ハーフなのか?』

身に纏う制服は僕の学校より一つ前の駅にある女子校のそれで、彼女の性格を表すかのように乱れ一つなく。

僕のクラスにいる『いまどき』な女の子達とは明らかに一線を画している。

見れば見るほど、夢の中のあの人と重なっていく彼女から目が離せないまま、電車は彼女の下車駅に滑り込んだ。

年季を感じさせるブックマークを挟み大切そうに胸に抱えて、僕の脇を通り過ぎて行く。

その僅かな距離に、苛立ちとももどかしさともつかない何かが、僕の心拍数を微かに乱した。


間もなくして降り立ったホームは、僕ら朝練組くらいのもので人も疎らだ。
僕を見つけたクラブの仲間の声で、ようやくいつもの時間の流れが戻って来た。
「なんだ乗ってたのか。いつもの車両にいないから遅刻かと思ったぜ」
「車両変えたんだ」
「何だ?可愛いコでも見つけたのか?」

まぁ、確かに可愛いけど…。

僕は既にない電車のホームを見ながら、言い訳を探し…。

諦めた。

「まぁ、そんなところだな」

少なくとも現実では、まだいらいらさせられてないのだから。


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