陽だまりの詩 10-5
「いいか、よく聞いておけ」
…前振り長いな。
「この間、殴ったことは悪かった」
「…へ?」
予想外の言葉に唖然とする。
絶対にそんなことで謝らないと思っていた。
「溺愛している娘に、こんなに早く悪い虫が付くとは思わなかったからな。つい焦ってカッとなった」
悪い虫って誰のことっすか…
「普通はあれで逃げると思った」
そりゃ軽い気持ちで寄ってきたなら逃げるわな。
だけど俺は軽い気持ちじゃない。
「だがお前は逃げなかった。まあどういう神経しているのか疑ったがな」
「…なにが言いたいんすか」
しびれを切らせて問いただしてみた。
「……」
「……」
今までで一番重い沈黙。
「…なにが言いたいのかわからなくなった」
ずっこけそうになった。
やっぱりあんたは奏の父親だ。
「…まあなんだ」
お父さんは再びタバコに火をつけた。
「お前が奏にとって大事な人間だということはわかった」
「……」
「そしてお前が奏にとって必要な人間だといいことも」
「それは、俺を認めていただいた、ということですか?」
「……」
なにか言ってくれよ。
「…存在だけは認めてやる」
「…?」
「ま、せいぜい奏に利用されるこったな」
そう言うと、お父さんは全く吸っていないタバコを消して、携帯灰皿に入れると腕をひょいと挙げて去っていった。
「……」
お父さんの背中は大きかった。
父親として娘を守るのは当たり前。
俺も奏を好きになった以上、父親から娘を奪うということだ。
結局、お父さんに認められたかどうかはわからなかったが、これからも誠実に奏と接していこうと決心した。