loop-2
「…珍しいね、学校?」
「一応大学生だからー。久しぶりだし、寒いから一緒にいこうか。」
そう言ってフキは柔らかく笑った。あたしはその笑顔を見て、変わってないな、と当たり前の事を思いながらフキに続いて愛車に乗り込んだ。
こうやってフキの車に乗る事も久しぶりだ。
他愛ない会話をしながら、なんだかこの状況が不思議で、フキの横顔を眺める。
はにかむって言葉はフキにぴったりだと思う。
間延びしたこの声や、フキを取り巻くこの柔らかい雰囲気は独特で、さらにはにかむようにふわふわと笑うから、フキの周りには昔から自然と人が集まる。
フキはそんな奴だ。
「ん?なにー?」
あたしの視線に気付いたフキがあたしに視線を向ける。あたしはフキの目がまともに見れなくて、何もない、と少し笑いながらごまかした。
しばらくして学校に着くと、すれ違う度にフキに声がかかる。
『由紀おはよー』
『由紀が朝からいるとか珍しいなー』
『今日は寝坊しなかったんだぁ』
改めてフキの友達の多さに驚く。
かけられる言葉は様々で、それに対してフキはうんとか、まぁねとか例のはにかんだ笑顔で返していく。
ちなみにフキの本当の名前は由紀で、あたしがまだうんと小さい頃、どうしても『ユキ』と呼べずに『フキ』と呼んでいたのがそのまま定着したものであって、あたし以外に呼ぶ人は多分いない。
「あたし、こっちだから。」
大学の門から続く広場をしばらく歩いた所で2人して立ち止まり、じゃぁ、と軽く手をあげてあたしは違う方向に歩き出した。フキもそれに応えるように何も言わずに手をあげる。
きっとフキは柔らかい笑顔を浮かべて、寛いだように立って手をあげている。
あたしは見なくともフキのそんな姿が目に浮かんだ。
あたしは振り向かないまま、まっすぐに歩く。
「…遥っ!」
少し歩いた所で、フキにしては珍しく大きな声にあたしは少し驚いて振り向いた。
「…何?」
そこには寛いでいるはずのフキが、中途半端に手を挙げたまま、呼び止めた事に自分でも困ったような表情をして立っていた。
そんなフキにあたしはまた驚く。
「今日メシ…いかね?なんか会ったの久しぶりだし。」
自分でもその声に少し照れたように、隣に住んでるのにおかしいよな、と付け加えて頭をかきながらくしゃりとはにかむ。照れた時のフキの癖だ。
「あ…」
「用があるんならいいんだけど…さ」
すかさずフキの言葉がかぶさる。
なんだか急に気まずさが増してあたしはうつむいた。
「…今日先約があるんだ。」
あたしは辛うじて聞こえるであろう声でぽそりと言った。
またフキの目を見れない自分がいる。