ずっとそばに。vol.2-3
やっと未衣がとまったと思えば、そこは屋上だった。すごい息のあがりようで声は聞こえないが、俺に何かを訴えている。
「……で…っ」
「はぁ、ハァ…何…て?」
「余計なことしないでッッ!!」
彼女は叫んだ。瞳にたくさんの涙をためて、さらに続ける。
「剛史は何も知らないんだから口出さないで!」
ひっくひっくと、息も整わないのに今にも泣き出しそうな息遣いだ。
「わかるよ。あいつらがやってることがイジメだってことぐらいはわかる!」
彼女の目が大きく見開かれる。大粒の涙がぽたぽたとコンクリートの地面にしみをつくる。
「ごめん。でもな…」
「それでも、何もしないで。変えようとしないで…」
あんなスピードで走ってきたせいで、前髪のピンは大きくゆがんでいる。でも、困ったときの十八番のあの仕草はない。
「誰も悪くないから…」
なぁ、その言葉が俺の気持ちを苦しめるんだ。
未衣も、だろ?
俺は彼女をぐっと抱き寄せる。少し抵抗する彼女の腕をもすっぽりつつんで、顔を自分の胸にうずめる形で抱きすくめた。
「もう何も言うな」
未衣の涙が、制服のシャツを通してあたたかく俺の肌を濡らす。
「そうやって自分を責めたりすんな……」
彼女の肩が震える。俺は力強く抱きしめる。
「誰も悪くないんだろ?」
そう言うと、俺はもう一度強く抱きしめる。未衣は俺の背中に手を回したかと思った瞬間、幼い子どものようにわんわんと声をあげて泣いた。泣いている間、私が、とか景子が、とか言う声が聞こえたが、あえて何にも聞かずに髪の毛を、頭をずっとなでていた。
愛しい、と思った。
俺が守っていきたい。
彼女はひとしきり泣いたあと、俺に抱きついたまま涙に濡れた顔をあげた。
「ねぇ」
「ん?」
「今度、ちゃんとはなすから聞いてくれる…?」
そうたずねる彼女が可愛くて、思わず顔がゆるむ。
「いつでも聞くよ」
「今日の晩でも?」
「今からでも」
ふっと自然と視線がからんで、軽く唇を合わせる。それから二人はやさしく微笑んだ。
青く澄んだ空には、二つの飛行機雲が並んでかかっていた。それはまるで、彼と彼女の想いのように。