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ずっとそばに。
【少年/少女 恋愛小説】

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ずっとそばに。vol.1-1

俺さぁ、ちっちゃい頃母さんに言われたんだよね。

ひとはみんな、さみしがりやで一人では生きていけないって。

 ふーん、と目の前の彼女は言った。パーマのかかった明るく染まった髪、短い前髪のど真ん中に留めてあるピン、大きな瞳。
「だから?」
次の授業の古文のノート。“八倉未衣(はちくらみい)”と書いてある。猫みたいな名前だなぁと俺は思った。目も猫みてぇだ。
「私みたいなのにからんでないで、他の女子にサービスしてきなよ。」
そう言って、未衣は教室を出ていってしまった。
と同時に、大勢の女が彼の周りに集まる。
「海原(うなばら)くん、未衣なんてほっときなよ。あの子、ちょーイケスカナイから」
「そぉそッッウリやってるって噂もあるんだから。」
ぎゃあぎゃあと未衣の悪口を言い立てる女子たち。俺はなるべく彼女たちの気を荒立てないようにたずねた。
「八倉さんが何かイヤなことしたの?」
すると、一人がこう答えた。
「ううん、別に・・・ね。」


未衣は屋上にいた。寝転がって、大きな入道雲を見ていた。空を見上げるのは未衣の日常だった。のんびり風に漂う雲が好きだった。
「日焼けするかな・・・」
持ってきたハンドタオルを広げる。大好きな、空色のタオル。

空は好き。どんなことも、大きな気持ちでココに私を向かえてくれるから。
いつも同じ色ね。色が変わって降らす雨も雪も、地球を潤すためでしょう?それって、

なんて素敵。

 そっと顔をタオルで覆う。目を閉じても、明暗だけでわかる太陽の位置。
「〜〜〜〜♪―――…」
未衣はそっと歌い出す。誰も知らない、彼女だけの歌。そのメロディーは、凛と澄んだ、しかしどこか切なく儚い旋律。
 未衣はいつもこの歌を歌った。一人のときは、楽しくても、悲しくても歌った。幼い頃からの癖。一人っ子だから、両親が帰るまでは一人だ、テレビもつけずにひたすらに口ずさんだ。

 彼女が出ていった後、俺はひたすらミーハーな彼女たちの相手をしていた。俺、海原剛史(うなばらつよし)は、なかなかイィルックスのためどこにいってもちやほやされる。
「前はどこに住んでたの?」
「彼女いるの?」
そんな質問に答えていると、遠巻きだが、さっきの女の子たちが、未衣の席に座って楽しそうにしていた。なんだかんだ言って仲はいいのか?女子ならではの机にお手紙、でもしているのだろうか。
「ちょっと聞いてるー?」
まったく、モテる男は転入早々忙しいなぁ〜!!

 いつの間にか寝ていたようだ。少し日も傾いている。
「痛ぁ・・・」
タオルで隠した部分以外が赤くヒリヒリしている。体をあまり動かす気になれず、横たえたままポケットに手を入れる。リン、と鈴の音がした。ハートが半分に欠けた青い天然石のペアストラップ。
「三時半・・・」
よくそんなに寝られたもんだ、と自分に呆れる。午後をサボろうと思ったのは事実だが、まさかこんな過ごし方になるなど思いもしなかった。

 教室に彼女が戻ってきたのは放課後になってからだった。顔以外を真っ赤にさせて、ずっとひなたにいたことが伺える。彼女は、机の上に置いてあるあのノートを手にとると、そのまま真っ直ぐにごみ箱へ向かい、投げ捨てた。
しばらく彼女はごみ箱の中身を見つめていた。俺は彼女の行動に呆気にとられた。
「なに、してるの・・・」
そういうのが精一杯だったのに、彼女は冷たく静かにこう言い放った。
「うるせぇよ。」
俺は凍りついた。あんなに冷たい目は、今まで生きてきたなかで見たことがなかった。未衣は荷物をさっさとまとめると、この空間から出ていった。思わず、俺は追いかけた。


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