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『本当の自分……』
【少年/少女 恋愛小説】

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『終わりの闇、始まりの光』-3

「やっぱりね。私のじゃ、サイズが合わないだろうし、お母さんのを借りるってのもね……だから、圭子姉に頼んであげる。」
「弥生……」
「お節介だった?」
彼女の言葉に、私は首を振る。毎度の事ながら、弥生の察しの良さと機転の早さには舌を巻いてしまう。彼女は携帯を取り出すと電話を掛け始めた。多分、圭子さんのところに電話しているのだろう。そのやり取りを聞きながら、私は心の中に忍び寄る不安を必死に振り払おうとしていた。


「ねぇ……大丈夫?」
「……うん……」

電車の中で何度も繰り返された台詞のやり取り。東京に近付くにつれて、次第に私の口数は減っていく。膝の上に置いた手が微かに震える……

魅也の真意は何なんだろう。訃報の報せはわかるとしても、私に会いたがる理由がわからない。わからなくて……怖い。
「由佳。記帳して、お焼香したらすぐ出ておいで。私、入口で待ってるから……」
「………」
もう、声すら出せなくなった私は、ただ無言で首を動かした。
「大丈夫よ、由佳。私がついてるから……。何があっても傍にいるから……」
私をそっと抱き締めて、弥生は囁く。いつもこの言葉が私を後押ししてくれる。そして、安心感を与えてくれる……
「うん……」
手の平を重ねて私は小さく頷いた。


「待っていたわ、さぁ入って……」
久しぶりに見る圭子さんの顔、いつもと変わらない優しい微笑みを私に向けてくれる。
「時間がないわ。由佳、こっちにいらっしゃい、用意しておいたから……」
圭子さんは私の腕を掴むと隣の部屋へと引っ張って行った。
「よく決心したわね。」
私の髪を梳(す)きながら圭子さんは言う。
「本当はまだ怖いんです。だけど、よくしてくれた人だったから、お別れだけはしておきたくて……」
「後悔したくない……か。変わったわね由佳。」
圭子さんはそう言って、微笑む。そして用意されていた喪服は、誂(あつら)えたように私にピッタリだった。彼女は化粧道具を取り出すと、私の顎に手を掛けながら
「少しだけメイクしておきましょう念の為にね。」
そう言った。
「念の為?」
私が尋ねても、彼女は頷くだけで何も答えない。

どういう意味なんだろう。……化粧……それは女性をより美しく見せる為のアイテム。それを私にする理由は?

私をもっと女性らしく見せる為……でも誰に?

思いを巡らせて私は気が付いた。それは魅也に別人だと印象付ける為、ヨシキではなく由佳なのだと……
彼女の言葉の意味を理解した私は小さく呟く。
「ありがとう圭子さん」
それでもやはり、彼女は黙って微笑むだけだった。

「さて、こんなものかしら?美人になったわよ?」
彼女はそう言って私に手鏡を渡す。
「これが……私?」
鏡の中に別人がいた。アイラインにルージュ、他にもいろいろ……。詳しくはわからないけど、すっかり変わった自分の顔に私はただ驚くばかりだった。
「軽くのつもりだったんだけど、素材がいいから力が入っちゃったわ。」
「驚きました。変わるんですね、化粧すると……」
「大事な妹の為だもの、私にはこれくらいしか出来ないけれどね……」

妹?私は自分の耳を疑った。間違いなく彼女は今、私を妹と呼んでくれた。
「私が勝手にそう思ってるだけなんだけれど、迷惑だったかしら?」
私の目に映る圭子さんの顔が次第にぼやけていく。
「や、やだ、泣かないでよ。せっかく頑張ったんだから、崩れちゃうわ。」
「ごめんなさい……ありがとう……嬉しい……」
やっとの思いで私が口に出来たのは、それだけ。そんな私を圭子さんは優しく涙を拭ってくれた後、そっと抱き締める。
「私なりにね、あなたに出来るコトをいつも考えてるの、大切な妹だから……。だからね、もっと頼ってちょうだい。甘えていいから……それだけは言っておきたいの……」

ああ、もうダメだ。私の涙腺は壊れちゃったらしい。さっきよりも勢いよく、涙が溢れ出してしまって止めるコトが出来なかった。
「だから、泣いちゃダメだってば……」
圭子さん、ひどいよ。そんなコト言っておいて『泣かないで』だなんて……

コンコン……

そんな時、小さく扉をノックする音が響いた。
「圭子姉、まだ?」
ずっと一人でいて痺れを切らしたんだろう、扉の外から弥生の声が聞こえてきた。


「ええ、今行くわ。」
そう答えた後、彼女は私に向かってウインクする。そして小声で
「あなたをずっと独占して、ずるいってムクれてるのよ、きっと……」
そう言って笑った。


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