『終わりの闇、始まりの光』-14
女として生きなければならない。それは強迫観念にも似た諦(あきら)め……
仕方がない……
もう男には戻れないのだから……
仕方がない……
女として生きるしかないのだから……
仕方がない……
受け入れた訳じゃない、ただ諦めただけ……
私と同じように彼女の時間は止まったままなのだろう。
前に進む一歩が踏み出せないまま……
心を置き去りにしたまま……
でも、由佳は歩き始めようとしてるのかもしれない。苦しみながらも受け入れようとしてるのかもしれない。だから魅也に会う決心をしたんだよね?
こんなにも、あなたのコトがわかるんだよ?だって、あなたはもう一人の私なんだから……
だけど、今のあなたの背中を押してあげられるのは、私じゃない……
それは母親でも、圭子姉でもない。彼女が彼に戻れるところ……魅也しかいないんだ。
切なかった……
悔しかった……
こんなにも近くにいるのに……
こんなにも想っているのに……
こんなにもあなたのコトがわかるのに……
でも、私じゃダメなんだ。だから私は……
「これが、最後に私が由佳にしてあげられるコトだから……」
東京に行く前、私は圭子姉に電話でそう言った。
「弥生、最後ってどういう意味なの?」
そんなつもりじゃなかったけど、言い方が悪かったのか圭子姉は慌てていた。
「上手く言えないけど、もう由佳を歪めたくないの。誰よりも大切な人だから……。今、由佳を助けてあげられるのは魅也しかいない。だから、週末に行っていい?二人を会わせたいの……」
「あなたはそれでいいの?弥生……」
「私はいいの。今は由佳を……魅也を助けたい……それだけだから……」
それ以上、圭子姉は何も聞かなかった。ただ一言、『待ってるわ』と言っただけだった。
そして陽が西に傾き始めた頃、私達は圭子姉のマンションに着いた。相変わらずの変わらない笑顔……まるで何も知らないような顔で、圭子姉は私達を出迎えてくれた。
(日曜日…真壁魅也)
後、10分で約束の時間になる。
待ち合わせの喫茶店の中で私は時計を見た。少し身体が怠(だる)い。それも当然かもしれない、私は寝ていなかったから……
昨日の夜、私は弥生と電話で話した。
「約束…守ってくれたのね、ありがとう弥生。」
『いいの。あなたの為だけじゃないから……』
どういう意味なんだろう。弥生の言葉の意味が私にはわからなかった。
『とにかく、時間と場所を決めましょ?』
「う、うん……」
淡々とした言葉使い……。あっさりと、待ち合わせ場所を決める弥生に私は妙な不安を感じた。
「明日、あなたも来てくれるんでしょ?」
私がそう尋ねても、弥生からは曖昧な返事しか返って来ない。
『とにかく明日ね……』
弥生との会話は、それで終わった。電話が切れた後も、その言葉だけが頭から離れなくて、悶々とした思いのまま朝を迎えた。そして、私は待ち合わせ時間より1時間も早く来てしまい、ここに坐っている。
再度時計を見る。後、5分……
時間の経過を物語るように、飲み手に忘れ去られた二杯目のコーヒーは、すでに冷え切っていた。
カラン、カラカラーン
不意に入口のドアに付いている、カウベルが鳴った。そして店員の『いらっしゃいませ』の声。反射的に入口を見ると……
彼女達がいた。