『終わりの闇、始まりの光』-12
ヨシキは、私の知っているヨシキのままだった……。たとえ、姿形は変わっても、優しいままの彼だった。私の中の彼を壊さない為に、敢えて双子の妹を装ってくれていたんだ。
自分の存在を否定してまでも……
私の頬に何かが当たる、それは弥生の差し出したハンカチだった。彼女は私の涙を優しく拭ってくれる。そんな彼女もまた、泣いていた。
「バカ……先に自分の涙を拭きなさいよ。」
そう言うと、彼女は淋しげに微笑んで私を見つめる。
「話してくれてありがとう……弥生さん。」
「弥生でいいわ……」
彼女の言葉に私も頷く。
「そうね、ここまで気持ちをぶつけ合っちゃったんだもの、今更よね……。じゃあ私も魅也でいいわ、弥生。」
私の言葉に弥生は頷いていた。
それは運命の悪戯……
彼が彼のままだったら、私達は出会わなかった。
女三人の奇妙な三角関係……
誰が悪い訳じゃない……。だけど、私達は傷つけあってしまった。
弥生は自らの想いを告白した。たとえ、その為にヨシキを……由佳を失うコトになるとしても……
それなら、私も自分の気持ちにケリをつけなきゃ……由佳の為に、自分の為に……
「弥生、お願いがあるの。あなただから……ううん、あなたじゃないとダメだから、頼みたいの。」
弥生は黙ったまま、私の顔を見つめている。
「すべて知ってしまった今だからこそ、私は彼女に逢いたいの……。終わらせる為に……そして、始める為に……」
静かに時間が流れて行く。私の覚悟は弥生に伝わったのだろうか?やがて、私の耳に答えが返って来た。
「アドレス……教えてくれる?」
そう言って弥生は携帯を取り出した。
そして、あれから一ヶ月が過ぎた。けれど、弥生からはまだ連絡は無い。
あの時のコトを、私はこう考えている。きっと祖母が私達を引き合わせてくれたんじゃないかと……
祖母が言わなければ、私はヨシキのコトを思い出さなかったから……
祖母の葬儀が無ければ、再び会うコトなど無かった筈だから……
自分に都合のいい考えかもしれない……だけど、私はそう思っている。
私の前からヨシキがいなくなって四年が過ぎた。行き場の無い想いを抱えたまま過ごした日々は、ようやく終わるのだろうか?
逸(はや)る気持ちを抑え切れない。ヨシキは私に会ってくれるのだろうか?
だけど今はただ、弥生を信じるしかない。
早くあなたに逢いたい…
日に日に想いは募(つの)っていく……。何度、自分から弥生に電話しようと思ったコトだろう。それでも私は待ち続けた。
そして……何の前触れもなく、その日は訪れる。
その日、入浴を終えた私は、部屋の机の上に置いてある携帯がメールを着信しているのに気付いた。
送信者名……弥生……
ドクンッ!
私の心臓が大きく鳴った。震える指先がメールを開く……
《魅也、連絡遅れてごめんなさい。
今度の土曜日、由佳と一緒に東京に行きます。
だから、土曜の夜に電話して下さい。》
弥生は約束を守ってくれた。とうとう彼女に会える……
……ふぅ……
私の口から息が漏れた。それは期待の吐息?それとも後悔の溜息?その答えは、もうすぐ明らかになるのだろう……