僕とお姉様・最終話〜僕と一緒に暮らしませんか〜-6
「雑巾持って来たよー」
何も知らない母さんは場の空気に似合わず明るく登場。その姿を確認するや否や、ひばりちゃんはすぐに立ち上がって今度は母さんに詰め寄った。
「何で妊娠なんかするの!?」
「何、何でってそりゃ…」
「赤ちゃんなんかできたら強君がまたあなたの所に行っちゃうじゃない!」
そんな事を言った覚えはないし、そんな気もないんだが…
「そっかぁ、その手があったか。強、また一緒に暮らす?って誰、その人」
僕のこの状態にやっと気付いた母さんはお姉様に少し厳しい目を向ける。
「あんた誰?強に何してんの」
「あたしは―…」
お姉様が自分の事をどう説明するのか、この状況でも少し興味があった。でもそれを知る前にひばりちゃんが声をあげた。
「お姉さんは強君の恋人!!!!」
とんでもない一言が響き渡り、一瞬室内の時間が止まる。
「へ!?」
「は!?」
僕とお姉様はほぼ同時に声をあげてひばりちゃんを見た。
「今一緒に暮らしてるんだよね!だから強君はずっとここにいるんだよね!ね!?」
また何を言い出すの、この子は。
お姉様が現時点で家を出てるのを知ってるくせに、僕らが恋人同士でも何でもない事だって分かってて…
「待ってひばりちゃん、あたしはここを出て―」
「強君はお姉さんを探しに行ったの!だから戻って来てくれるでしょ?あたしはここで四人で暮らしたいの!!!!」
…今、真相が見えた気がした。
ひばりちゃんは本気でこの同居生活を気に入ってた。僕らの中の誰よりもだ。お姉様に対しても、新婚生活のお邪魔虫なんて思わずに好意100%で接していた。純粋に父さんの妻として僕の母としてこの場にいたかったんだ。
もしかして…
頭に浮かんだ仮説は、考えれば考えるほど真実味を帯びてくる。
「ひばりちゃん?あのさっきの事なんだけど…」
思い切って問い掛けても、今それどころではないらしい。
「強君も、お姉さんがいればここにいてくれるでしょ!?」
わざわざ聞くまでもないな。
ひばりちゃんの必死の形相を見て確信した。
間違ない、あれは僕にお姉様を連れ戻させるための捨て身の作戦だ。でなきゃこの子が自ら家庭崩壊に繋がるようなマネするわけがない。そうだ、そう考えれば納得がいく。
ていうか、女って怖っ!
僕が本気にしたらどうするつもりだったんだ。何もなかったから良かった様なものの…
…それも考慮した上での作戦って事か。
ひばりちゃんは僕がお姉様を好きだって完全に見抜いていたんだ。だからあそこまで大胆になれたんだろう。
改めて、怖っ
でも、まぁ…確かに作戦としては気持ちのいいモノではないけど、今は感謝するしかない。僕に探しに行くきっかけをくれたんだから。
相変わらず僕の胸ぐらを掴んだままのお姉様の両手首をがっちり握った。
「離して!」
そこから逃れようとする必死の抵抗を無視して押さえ込む。
「ひばりちゃん俺、出てく気ないよ」
「ほんと!?」
「うん、…この人さえいたら」
自分の中ではカッコいい事を言ったつもり…なんだけど、
「バカ山田っ、調子のいい事言うな!」
全く聞く耳を持たず僕の手を振り払おうとする。何て説明したらこの人の勘違いは晴れるんだろうか。
「悪いけど、二人共出ててくれる?」
僕の申し出に対して、
「分かった、ごゆっくり」
数分前とは打って変わって上機嫌で出て行くひばりちゃんと
「強と話したくて来たのに」
納得いかない様子の母さん。
「後でちゃんと話すから」
軽く約束をして部屋から締め出した。