秋と春か夏か冬〜18話『過去と思い出』〜-1
温泉旅行から1ヶ月。街からは蝉の鳴き声が聞こえ始め、夏がだんだんと顔を見せ始めていた。
夏休みを目前に控えた休日、俺は駅で夏輝を待っていた。温泉で約束した場所…つまり、夏輝の行きたいところとやらに付き合う約束をしていたからだ。
待ち合わせ場所。だが夏輝の姿はまだない。
そして待ち合わせ時間より1分すぎたころ…
「恭介〜!」
夏輝が小走りで寄ってくる。手には花束を持っている。なぜ?
「遅れてごめんね」
「いや、遅れたって言っても1分くらいだぞ?」
「うん。けど、それでも遅刻は遅刻だから♪」
俺が普段から遅刻しているせいか、耳が痛い…。
「…まぁ俺も人のこと言えないし、別に良いよ。それで、今日はどこに行きたいんだ?」
まだ行く場所を聞いていない。
「えっとねぇ……ここから少し行ったところ。とりあえず電車のろう♪」
「だから場所は?」
「ん〜電車降りてから少し歩くかなぁ…」
「………」
「でも大丈夫!ホントに遠くないから♪」
「…おぃ…答える気ねーだろ…」
「あはは。まぁ行けばわかるさ♪恭介もよく知っているところだよ」
「……はぁ」
聞いても無駄そうなので俺は諦めることにした。
「よし、出発〜♪」
そう言って腕に抱きついてくる夏輝。
「…ば、バカ!何度も言ってるが、抱きつくんじゃない!」
「照れないでよ♪良いじゃんかー」
「ただでさえ夏でで暑いんだから勘弁してくれ…」
「えー!暑いくらいがちょうど良いよ♪恭介は夏、嫌い?」
「別に嫌いじゃない…というか好きな方かも。だけど…少し苦手だ…」
嘘じゃない。部活をやっていた頃は、これより暑くても必死に動いて滝のように汗をかいていた。汗だくだというのに、それは決して気持ち悪いものではなく、清々しいものがあった。
でも…同時にバスケをやっていたころを思いだし、事故を起こした記憶をも呼び出され、少しまいるときもあるのも事実であった。
「そっか…僕と一緒だね♪僕も夏は大好き。楽しい思い出がたくさんあるもん♪でも…悲しいこともあった。だから少しだけ…複雑なんだ」
曖昧な表情で笑う夏輝。その顔は微笑んでいるようで、でもどこか悲しそうで…。なぜか泣いている夏輝が頭に浮かんだ。
気が付くと俺は夏輝の手を握って引っ張っていた。