秋と春か夏か冬〜18話『過去と思い出』〜-3
「ここから少し歩くんだ♪行こう」
そう行って歩き出す夏輝。俺は戸惑いながら、その半歩後ろを歩いていった。
10分くらいたったか…どう考えても夏輝は俺が知っている場所へ向かっているようだった。
「夏輝…」
「うん、恭介が考えている場所であっていると思うよ……見えてきた」
緩やかな坂道を登り、着いた場所は小さな寺。この町を一望できる眺めで、ほどよい風が流れてくる。そしてその寺の横こそ…俺が1年に4度、必ず足を運ぶ場所。目の前の石には『秋津 桔梗』と名が刻んであった。
そう…俺の母さんの墓石だ…。
「夏輝…なんで母さんを……」
会ったことあるのか?いや、そんなはずない。そもそも母さんは俺が物心つく前に亡くなった。
おれでさえ、憶えている記憶がほとんどない。
「恭介…言いたいことはあるだろうけど、とりあえずお水を汲んでこようよ」
「…あ…あぁ」
それから2人で墓石を綺麗にし、花束を添えて供養した。まぁ綺麗にしたと言っても、親父やら杏子やらが頻繁に来ているので汚れていなかったが…。
そして一通り終わったあと夏輝が話だした…。
「う〜ん…まず、なんで桔梗さんを知っているかだよね。ホントはね……会ったことはないんだ。でも、どうしてもお礼を言いたかったの」
その言葉に余計にわからなくなる。
「やっぱり…まだわからないか…コレ、見覚えない?」
そう言って夏輝は何かをカバンから取りだし、首につけた。
「それは…ネックレス…?……母さんの…?あっ…」
―――《やくそくだよ》――――《ぜったいにだいじにする》―――《おとなになったら『さいかい』しようね》―――
……思い出した。
ぜんぶ……。
「……思い出した…全部…。あのとき…10年前のあのとき、会っていたんだな…おれたち…夏休みに、あのキャンプ場で…」
「うん…」
あれは10年前の夏休みの…たった5日間…でも2人にとって、大切な大切な5日間のことだった。
夏輝に対して、申し訳なさでいっぱいになる。
「夏輝…ごめん」
他に言葉が出ず、ただ謝ることしか出来なかった。