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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第1話-1

おとぎ話は、とかく無駄なアクションが多い。
例えば、寝物語にかあさんが読んでくれた『高い搭に閉じ込められた女の子』の話。

僕はその話を読み聞かせられる度、いらいらしていた。
男の僕に何故、女の子の話なのか。
もちろんそれもあるけど、僕が一番苛立ちを感じていたのは、『閉じ込められっぱなしの女の子』にだったのだ。

だから僕は思う。
故に繰り返す。
おとぎ話は、とかく無駄なアクションが多い。と。


搭壁を撫でるようにせり上がってくる強い風が、避雷針の傍らに立つ僕の頬を撫でていく。

足元には褪せた赤い搭の屋根瓦、更に下に広がるのは鬱蒼とした木立。

風にそよぐ葉ずれの音に紛れ、きれぎれに聞こえてくるのは…“彼女”の歌声だ。

「あぁ、夢か」
僕はこの時点で、ここが僕の夢である事を悟ってしまう。

そう。ここは僕の夢。繰り返し見てきた僕の夢の中だ。
いつものように、右手には大きなハサミ。
『どうせムダなんだけどな』と小さく舌打ちして、僕は搭のてっぺんから空へと足を踏み出した。

今やすっかり馴れたつかの間の緩い落下の後、搭にあるただ一つの窓にたどり着くと、入れ違うように小鳥たちが窓の外へと飛び立っていく。

「あら、来たのね」
歌の主…彼女は歌うような暢気な口調で、僕を招きいれた。

窓枠にハサミを捕られないよう気をつけながら部屋に入る。
またしてもイバラの梯子は見つからない。
王子様はまだ、この搭を見つけられないようだ。

「相変わらず暢気だね」
「そうかしら?」
僕は苛立ちを隠せないまま、右手のハサミを彼女に差し出した。

「これは?」
首を傾げて受け取る彼女。
「ハサミだよ」
「これをどうするの?」
いつもと同じ歌うようないらえ。
あぁ!いらいらする!
「それ使ってここから逃げなよ。その長い髪を切って梯子がわりにしてさ」

彼女はキョトンとした視線を僕からハサミに移した。たっぷり10秒後、再び彼女は僕に視線を戻した。

「でも、いつかここから出して下さる人が現れるんじゃないかしら?」
「…………」

あぁ!なんて他力本願!
目眩さえ感じるほどだ。

大きなため息ひとつ。だからね…と説明しようとしたところでタイムアウト。
搭の下から彼女を呼ぶ声が聞こえている。


窓から射す明るい陽射しに目を開けた。
かしましい目覚まし時計のアラームを止める。
ここは現実。いつもの朝。
…のはずが
「ゲッ!目覚まし止まってんじゃん」

僕はバタバタと顔を洗って歯を磨き、制服に袖を通し、母の用意した朝食もそこそこに、家を飛び出した。
「やっべ〜。電車ギリギリ!ついでに朝練もギリギリ」
寝起きの身体を無理矢理走らせ駅に向かい、いつもの電車がまもなくホームを離れるところを間一髪で乗り込んだ。
朝練前には少しばかりハードな体慣らしに息が弾むのを、電車のドアに背を預けて落ち着かせる。
鈍い振動を合図に走り出す電車。
なんとかいつもの日常を取り戻しかけた僕の視界に映るのは。
『ラプンツェル?』
さっきまで夢で僕をイラつかせた他力本願の夢見るその人だった。


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