冷たい情愛Die Sekunde-3-1
彼の母親は、私が想像している感じとは少し違っていた。
田舎から出てきたという彼女だが、服装や動作は洗練されていた。
私の母親とは、随分と違うなあ…そんなことを思った。
「田舎にいると、息が詰まりそうなのよ」
笑って彼女は言った。
「何頼もうかしら、紘子さんもなんでもオーダーしてね」
「はい、ありがとうございます」
挨拶もそこそこに、彼女は屈託のない笑顔で私に話しかけてくれる。
「でも驚いたわ、芳にお付き合いしてる人がいるなんて」
「俺ももうすぐ30だし、普通だろ」
「そうだけど…女の人が嫌いなのかと思って、心配してたのよ」
彼女は、本当はそう思っていないだろうに、息子をからかうように言う。
遠藤くんは電車の中と同様、落ち着かない感じだ。
「紘子さんは、キャリアウーマン?って言えばいいのかしら」
彼女が私に話題を振った。
「え?」
「顔に、仕事してますって書いてあるもの」
彼女は笑顔でそう言う。
遠藤くんといる時は、リラックスした休日の顔になっていると思っていたが…
動作や表情の端々に、仕事の疲れが出てしまっているのだろうか。
「母さん、辞めろよそういう言い方」
遠藤くんは、不機嫌そうに言った。
「何よ、紘子さんと仲良く話したいだけじゃない、ね?」
彼女は私に同意を求めてくる。
遠藤くんも、母親の前では落ち着きも冷静さもどこかへ行ってしまうようだ。
彼は、私に話しかける余裕すらなく、母親の話を遮るのが精一杯なようだ。