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風船。
【悲恋 恋愛小説】

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another story.-1

・・・さて、これから僕らはどこまで行けるのだろう。

***

彼女は散る桜を見つめていた。
もしかしたら、枝の間から青空を見つめていたのかもしれない。

彼女は切なげな顔をしていた。
もしかしたら、枝の間から差す日の光が眩しかったのかもしれない。

そして僕はそんな彼女を見つめていた。
もしかしたら、それは夢だったのかもしれない。

***

彼女と僕は東京の中心からそう遠くなく、かといって23区からは外れているそんな街に住んでいた。

彼女と僕は幼馴染だった。
隣の家で、親同士が仲がよかったせいもあって、ふたりは自然に出会い、自然に仲良くなった。
彼女は明るく、僕はおとなしかった。
それでいて、ふたりは上手くかみ合っていた、と思う。
お互いがお互いを理解していた。
まるで自分のことように相手の気持ちがわかるくらいに。

彼女と僕はずっと一緒だと、そう思っていた。
少なくとも、僕は。

***

中学に行って彼女とは違うクラスになった。そして、中学に行って彼女は変わった。

あんなに明るくて学校が好きな彼女が、5月に入って学校に来なくなった。

***

彼女のクラス担任から、彼女がその外見からクラスメイトからイジメに「近い」扱いを受けていたということを聞かされた。
そして、僕が彼女の家に行って彼女を学校へ来るように説得してくれないかと頼まれた。

おとなしい僕は断れるはずもなく、彼女の家に行って彼女に学校へ来るように説得した。
けれども、彼女は、答えなかった。

ずっといっしょにいた僕だけは少なくとも彼女の気持ちをわかっているつもりだった。

だから、僕は何度も彼女を訪ね、彼女と何度も話した。
けれども、彼女は答えなかった。

***

梅雨になった。
降り続く雨は嫌だった。
そんな梅雨でも、通学路には鮮やかなアジサイが咲いた。

夏になった。
日差しは暑かった。
そんな夏でも、体育祭は盛り上がった。

秋になった。
夜ひとりでいると何故か淋しさを感じた。
そんな秋でも、文化祭ではクラスメイトとの一体感を感じた。

冬になった。
凍えそうな風に学校へ行くのが嫌になった。
そんな冬でも、舞うように降る雪は綺麗だった。

そして、春になった。

桜の蕾が開こうとしていた3月の終わりのこと。
彼女は彼女の母親の故郷に引っ越すことになった。

この1年の空白を残して。


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