another story.-2
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僕は、彼女に何かを言わなくてはいけない気がした。
慰めの言葉じゃなく、引き止める言葉でもない。
何か。
彼女の家を訪ねた。
が、そこに彼女はいなかった。
家具のような大きな荷物も運びだされて無くなっていた。
引越し作業はほぼ終わった様子だった。
彼女の母に尋ねたらめずらしく散歩に出たとのことだった。
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彼女を探して。
走った。
走った。
ひたすら走った。
彼女が学校に来なくなってから、僕はずっと走っていたような気もする。
欠けてる何かを探して。
走った。
走った。
ひたすら走った。
彼女と通った、桜並木まで。
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彼女はひとりで桜の枝を見つめていた。
『まだ、咲いてないんだね。』
こちらを見ないで彼女は言った。
『引っ越すって聞いて・・・。』
息も切れ切れに僕は呟いた。
『あっちには桜は無いと思うから、見ておきたくて。』
こちらを見ないで彼女は言った。
『これだけは言わなきゃと思って・・・。僕は、ずっと・・・。』
そこまで言って言葉が詰まった。
好きと言ってどうなるのだろう。
彼女はとどまってくれるのか。
彼女の傷ついた心は癒えるのだろうか。
『そろそろ、行かなくちゃ・・・。』
こちらを見つめて彼女は言った。
彼女の家まで並んで歩く。
聞こえたのは靴の音と郵便配達のバイクの音だけだった。
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『じゃあ行くね。今まで本当に、ありがとう。』そう言うと、彼女は彼女らしいごく自然な笑顔を見せた。
彼女がこれから何処へ行くのかを僕は知らない。
彼女がこれからどんな未来を創っていくのかも僕は知らない。
けれど、何故だろう。
彼女とは何処かでまた会えるような。
そんな、気がした。
自分でも気付かないうちに僕は自然な笑顔を返していた。
『これだけは言わなきゃと思って。僕はずっと・・・待ってるよ。』
彼女を乗せた車は、ゆっくり加速して、やがて視界から消えた。
夕方の空には、オレンジに染まった小さなふたつの雲が東に向かってゆっくり流れていた。
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