桜が咲く頃〜不安〜-3
ん゛〜…っと鈴は湯船で伸びをする。
夕食後、鈴はお風呂に入る。
そして矮助は、鈴が入っている間、風呂場の戸の前にいる。
というのも、矮助は鈴と雇用契約を結んだ日、鈴は今までの屋敷でのお風呂は、いつも皆が寝てから夜こっそり入っていたと聞き、矮助は鈴だけがゆっくり入れるよう、鈴専用の時間をとり、その時間に誰かが間違って入って来ないよう、見張っていることにした。
以来、夕食後鈴はお風呂に入り、矮助は誰も来ないよう見張るのが日課となっていた。
鈴は湯船に浸かりながらさっきの出来事を思い返していた。
(言いながら感情が高ぶったからって涙ぐむなんて…
アイツの前ではいつもカッコ悪いとこばかり見られている気がする…
そういえば、前にアイツに裸をみられたことがあったな…
今更ながら、恥ずかしい……)
ブクブクブクっと鈴は頭まで湯船に浸かった。
(この屋敷にいるときくらい、男装しなくてもいいんじゃないか？)
鈴を待つ間、ふと矮助は考えた。
(そうすれば、わざわざ男湯に入ることないし……
いや、だめだな。
親父に俺が女の子を家に泊めてると知れたらどうなるか…)
そんなことを考えていると
(のぼせた…)
鈴が軽くふらふらしながらお風呂から出てきた。
戸を開け廊下に出ると、壁に寄りかかりながら、矮助が立っていた。
鈴はよろけ、矮助が支えた。
『大丈夫か!?』
『悪い…』
鈴は矮助の腕に捕まりながら、矮助を見る。
お風呂上がりで、濡れた黒髪。
紅く上気した頬。
少し潤み、とろんとした瞳…
矮助は慌てて鈴から顔を背ける。
『どうした？』
矮助の顔を上目使いに覗き込む鈴。
矮助はたまらず…
『…っ、また髪濡れたまま出てきて!
もっとちゃんと拭かなきゃ風邪ひくっていつも言ってるだろ!?』
矮助は鈴の手を掴むと、鈴の部屋に向かって歩きだす。
鈴は矮助に引っ張られながら後をついて行く。
鈴は、矮助の耳が赤いのを不思議に思った。
部屋に着くと
『ほら座って』
矮助は鈴を座らせ、後ろから髪を拭く。
矮助の大きな手で、優しく丁寧に拭いてもらう。
鈴はこの時間が、とても好きだった。
こうして、鈴は少しずつ少しずつ、矮助の優しさに溺れて行った─―