冷たい情愛Die Sekunde-2-5
「困った顔も可愛いな」
「何言ってるのよ、もう休んだほうがいいんじゃない?」
彼は急に私の手を掴み、自分の方へ引き寄せた。私は体勢を崩し、彼の体に倒れこんでしまう。
「びっくりするじゃな…」
私の言葉を彼は遮る。
「今夜は…俺の言う通りにして」
彼はそう言った後、私の耳を甘噛みした。全身に緊張が走る。
でもそれは、嫌悪からくるものではなくて…
体の芯から、一気に熱を帯びるような感覚だ。
一緒にいることに慣れたはずの彼なのに…私は緊張する。
鼓動はどんどん速くなる。
愛情と同じ位、私が求めていたモノ…だと思う。
それが、一気に底から湧き出してくる感覚に襲われる。
彼がくれる愛情…いつものそれは、あまりにも幸せで…なのに、私は今の強い欲求にも惹かれてゆく。
「シャワー…浴びておいで」
優しいけれど、少し強い口調で彼は言った。
彼は俯いていて、私のほうは見ていない様子だ。
そんな彼を見ていて、私は不思議な感覚を覚えた。
これと同じような場面に、私は居合わせたことがある気がする。
頭の中で、一生懸命その場面を思い出す。
あの時だ。
遠藤くんと、まだ付き合う前。
片山が同席した、打ち合わせの時。
片山と私の関係に、薄々気付いた彼が、打ち合わせを抜け出し私の携帯に電話してきた時。
彼は、座ったまま…ずっと俯いていた。
私の考えすぎか…あの頃と同じはずはない。
そう、私は思っていた。