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論理ウルフ
【純文学 その他小説】

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論理ウルフ-1

 八頭のオオカミがねぐらに戻った。本日の収穫はウサギが二羽とキツネが一匹、計三つの死骸である。
 八頭のオオカミはメニューにこそ満足したが数には不満を感じた。あと一つ死骸があれば分けやすいのだが八頭で三つを分配するのは難しく、どこかで不公平が生じかねないからだ。彼らはきわめて論理的なオオカミであったため、のちに起こる論争を予見して対策を練った。
 リーダーは最初に自分の要望を述べた。
「私はどうしてもキツネを食べたい。そのためなら多少取り分が少なくなっても構わない」
 質より量を好むほかのオオカミは彼の要望を快諾した。
「あんたはキツネの肉をみんなより少なめに食べる。みんなはこれに異存はない。さて、これを前提としてみんなはどうしたい」
 副リーダーは六頭の顔色を窺って、誰かが発言するのを待った。ほどなく若いメスオオカミが挙手――挙脚した。彼女は一同の注目を浴びた。
「あたしはウサギさんの、とりわけもも肉だけを食べたいわ。ねえ、ウサギさんの脚を頂いてもいいでしょう?」
 副リーダーは頭上に数式を思い浮かべ、少し考えてからうなずいた。
「いいだろう。それで、脚は合計八本あるが何本食べたいんだ」
「うち四本を頂くというのはどうかしら?」
 ただちに異議が飛んできた。納得がいかないのは今回の狩りで大活躍した古株のオスオオカミである。
「君が四本も食すというのは、少し納得がいかないな。なぜなら君はひとつも獲物を獲っていない。我々はたしかに共産主義を貫いてはいるが功績が反映されないとわかれば士気が下がり今後の狩りにも支障がでる。君は希望の四本のうち一本を今回の貢献者にゆずり、残りの三本で我慢するのが妥当だと俺は思う」
 メスオオカミの反論は喉まで出掛かっていたが、一足早く老いたオオカミが申し訳なさげに口を挟んだ。
「いつも皆の脚を引くだけのわしであるから、その意見に反論はできんのう。あまつさえ食も細くなってきておるから、少しだけでも恵みがあれば満足じゃ。でも若いもんはしっかり食べんといかん。彼女に四本食べさせてあげ、かわりにわしのぶんを半分にするというのはどうじゃろうか」
 メスオオカミは老いたオオカミに身を寄せ、おじいちゃん……とつぶやいた。きわめて論理的なオオカミたちも、これには思わず涙ぐむ。
「あなたの言い分はわかった。彼女に四本の脚を与え、かわりに食欲の衰えたあなたには半分の量で我慢してもらう。みんなもそれでいいな」
 副リーダーが要点をまとめ、一同はこれに深くうなずき返した。一同はしばしのあいだ感傷に浸った。老いたオオカミとメスオオカミのやり取りをいつまでも浮かべ、暖かな想いを心に染みこませた。

 新参者のオオカミが、ふと思いついたことを言った。
「あのう、てだれの者がもう一度狩りにでて、もう一匹獲物を獲ってくるというのはどうですか?」
 副リーダーがきつく目を閉じて慌てた。彼の頭上に築かれた数式が雲集霧散しているのが見て取れた。
「待ってくれ、それだと今までの計算がパアになる。たしかにもう一つ獲物があれば話はすんなりと進むはずだったのだが、キツネの肉を少し食べたいリーダーと、ウサギの脚を四本食べたい彼女と、皆の半分で構わないじいさんと、じいさんの残りを余計に食べたい彼の要望を取り入れた上では各獲物を半分ずつという理想的な分配方式は通じないぞ」
 さらに古株が問題点をつけ加えた。
「狩りが成功するとも限らんし、それに残業するのはどうせ俺とリーダーだろう? 割に合わない」
 完全に論破された新参者は首を引っ込めて「おっしゃるとおり」と涙声で言った。彼の発言で感傷的なムードはすっかり白けたが、きわめて論理的なオオカミたちはさっさと頭を切り替えて残りの分配に全力を注いだ。

 それから半刻余りを費やしてようやく全員が納得のいくかたちに収まった。彼らは腹を空かせていたが、きわめて論理的なオオカミの集団は静かにゆっくりと食事をとった。


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