『本当の自分……』-6
「あっあなた、誰なんですか?なんで、あたしの名前を知ってるの?」
「き、聞き間違いじゃないかしら?私はそんな事……」
俺は必死でとぼけた……。だけど上擦る声だけは隠しようがなく、ごまかしているのがバレバレだった。
「なんで嘘付くの?ひょっとしたらヨシキの知り合いなんですか?もし、知っているなら、教えて下さい!功刀ヨシキの事を!!」
まさか、魅也が俺の名前をフルネームで呼ぶとは思わなかった。そして、その事に真っ先に反応し、驚きの声を上げたのは他の誰でも無い、弥生だった。
「功刀?それって由佳の苗字と同じじゃない!!」
弥生の馬鹿!!余計なコト言いやがって……
その台詞に少女……魅也は驚いたように両手を口に当てて、ぽろぽろと涙を零した。こうなったらもう、隠し通す事なんか出来ない……。俺は覚悟を決めると大きく溜息をついた。
「座って下さい、魅也さん。」
詰め寄る魅也をベンチに座らせ、俺はゆっくりと口を開いた。
「黙っていてごめんなさい。ヨシキ……功刀ヨシキは私の双子の兄です。」
弥生と魅也は一様に息を飲んだ。けれど、すぐさま魅也は反論してくる。
「嘘!そんな話、ヨシキから聞いたコトないわ!」
俺だって、言ったコト無いよ魅也。だけど、これしかこの場を収める方法がないと思った俺は、さらに言葉を続けた。
「じゃあ魅也さん。彼と苗字が同じでそっくりな顔を持ち、性別の違う私は誰かしら?」
俺が女になってしまったなどと、夢にも思っていない魅也は、俺の言葉に押し黙ってしまう。
「家庭の事情で私と兄は離れて住んでいました。でも、兄はいつでもあなたのコトを楽しそうに話していたわ。」
「お願い!由佳さん……ヨシキに会わせて!!」
叫ぶ魅也に、俺は震える唇を噛み締める。
「残念だけど、それは出来ないの……」
「どうしてですか!?」
頼むよ魅也……言いたくないんだ。言わせないでくれ。唇が震え、言葉は途切れ途切れになっていく。
「よく考えて……どうして大好きな…あなたに、日にちも…場所も…告げずに…兄は転校してしまったのか……そして…あなたと会ったとき…どうして私は他人の振りをしたのか……お願い魅也さん……これ以上、言わせないで……」
「い、嫌よ……由佳さん…からかってるんでしょ?…変な、冗…談やめてよ……」
やっぱりお前は頭がいいよ。魅也の顔色は、はっきりとわかる程に青ざめていく。それは、俺が何を言おうとしているのか理解した証拠だ。とても正視出来ずに俺は立ち上がり、魅也に背を向けた。
「そして、今……こんなにも…あなたに……頼まれても……ヨシキに……兄に…逢わせては……あげられ…ないの……わかって…魅也さん…」
もう、俺も限界だった。その場にすくむ魅也を残して、ゆっくりと公園の出口へと歩き出した。
頼む!!魅也……追って来ないでくれ……。
後を追うように、いつの間にか弥生が隣に来ていた。すぐそこに見えている公園の出口が、やけに遠く感じる。
タッタッタッ!!
そんな俺の願いを打ち砕くように、後ろから走る足音が近づいて来た。足音は俺を追い抜き、すぐ目の前で止まると、俺は両腕を掴まれる。
「嘘でしょ?……嘘よね?……二人して、からかってるんだから……悪趣味よ……ねぇ逢わせて……ヨシキに…逢わせて……逢わせてよぉ!!」
ボロボロと涙を流し、半分笑ったような顔で魅也は叫んだ。
幸せだよなヨシキ……こんなにも、お前のコトを想って、今でも泣いてくれるんだぞ魅也は……それだけでいいだろ?いいよな?
俺はしっかりと魅也の両肩を掴む。
「魅也さん…兄は……」
「やめて!!聞きたくない!あたしはヨシキに逢いたいだけなの!!」
魅也は嫌々をするように耳を塞ぐ。その手を強引に解き、耳元に俺は叫んだ。
「聞きなさい!!ヨシキは……死んだのよ!!」
…ああ…魅也……
大好きな魅也……
言いたくなかった……
言わなければならなかった……
目を見開いたまま、魅也は数歩後ろに下がった。口に手を当て、そして……
「いやあぁぁあっ!!」