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『本当の自分……』
【少年/少女 恋愛小説】

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『本当の自分……』-4

「はい、どうぞ……あら?どうしたの?弥生」

彼女はそう言って弥生の方を見た。確かに俺も気になってたんだけど、さっきから隣の弥生はやけに、そわそわと落ち着きがない。
その理由は次の一言で明らかになった。

「ね、圭子お姉さん。荷物置いたら出掛けてもいい?」

一瞬の間が開いた後、圭子さんは呆れた顔をした。

「なんですこの子は……。来たばっかりなのに、由佳ちゃんに悪いでしょ?」
「あ、俺…私は構わないです。」

そんな俺の言葉に、彼女はふぅーと溜息をつくと苦笑いをした。

「昔っから変わらないんだから……。いい?危ないとこには行っちゃダメよ?それと、8時までには帰りなさいね、みんなで御飯にするから。」
「はーい。さ、行こ!由佳。」
「わっ、おい、神原!」

圭子さんの許可を貰い、俄然張り切る弥生は、俺の腕を取るとグイグイと引っ張った。


「っとに、強引だなお前は……」
「エヘヘ、だって行きたいトコいっぱいあるんだもん。」
「ハイハイ、んでドコ行きたいんだ?」
「んと、ここ。」

店の紹介が載ってる雑誌を広げて、弥生は指差す。そこは俺が行ったコトのある店だった。駅まで来ていた俺は、料金表を見ると切符を二枚買う。

「じゃ行くか。」

切符を渡し、俺達は改札を抜けた。途中で一回乗り換えして、30分後には弥生の目的の店の前にいた。

「すごいね……」

隣で弥生が呟く。

「そうでもねーだろ?」
「違うよ、由佳がすごいって言ったの」
「俺が?なんで?」
「だって、地図も見ないで迷わないで来れちゃうんだもん。」

弥生は隣でしきりに『すごい、すごい』を連発していた。

「そんなコトか……。たいしたことねーよ、俺、中学まではこっちに住んでたからな。」
「え?」

固まる弥生を残して、俺は店内に入った。ひと足遅れて入って来た弥生は俺の手をギュッと握る。

「初めてだね……」

そう呟く弥生の目は微かに潤んでいた。

「由佳が初めて自分のコト話してくれたね……」
「つーか、誰も聞かなかったし、そんだけだよ。」
「由佳と出掛けて、今日一番嬉しかった。」
「大袈裟だっつーの!」

弥生の反応に俺は正直驚いていた。確かに俺は自分のコトを話したがらない。実際、聞いて来る奴がいなかったのは事実だけど、今日までの俺を考えれば、それは当然だろう。

久しぶりの東京に、俺自身も少し浮かれていたのかもしれない。だけど、ほんの少し自分の事を話しただけで、弥生がそこまで喜ぶコトが不思議でならなかった。

「な、なあ神原……腹へっちまったし、何か食わねーか?」
「そだね。じゃあ、由佳のお勧めの店にしようよ。それと、これからは弥生って呼んで。」
「わかった。じゃ、行こうか弥生。」
「うん!」


それにしても、こうやって女の子と飯食うのって、あの日以来かなぁ……。時々、俺の方を見ながら楽しそうに弥生は食べている。その姿が魅也とダブってしまい、俺の胸がチクリと痛んだ。ふと気付くと、そんな俺を不思議そうな顔で見ている弥生の視線に、話題を変えるつもりで俺は尋ねてみる。

「なぁ弥生。なんで俺と友達になろうと思ったんだ?俺って、ガサツだし無愛想だろ?」

すると、ジュースを飲む手を止めて、弥生はニッコリと笑った。

「最初はね、怖い人だと思ってたの。こんな人の隣なんて嫌だなぁって……。でもね、いつだったかなぁ…あたしが教科書忘れたとき、ポンッてあたしに教科書渡して、『どうせ俺、寝てるから使えよ』そう言ってくれたの。覚えてる?」

俺は腕組みして首を捻った。んなコトあったっけなぁ……。そんな俺の仕種を見ながら、弥生はクスクスと笑う。

「確かに無愛想だったけど、あたしが困ってるといつも助けてくれた。だから、ホントは優しい人なんだなぁって思ったの。」

じっと、見つめられて間が持てなくなった俺はコーヒーのお替わりを頼む。そんな俺を見て弥生は相変わらず微笑んでいた。

「あの時の由佳の言葉が嬉しくて……今日、あたし由佳を誘ったんだよ?」

弥生はそう言った。

「あの時?」
「そう……この前、あたし由佳を怒らせちゃったでしょ?その時『お前を嫌いになりたくないんだ』って言ったの覚えてる?」
「言ったような、言わないような……」
「その時ね、あたし嫌われてるんじゃないってわかって嬉しかったの。だから、由佳が謝まろうとしたとき、わざと話題を変えたんだよ?だって、とっくに許してたんだもん。」

女って凄いな……俺は呆然と弥生を見つめながら、心底そう思っていた。大して話をした訳でもないのに、こんなにも考えているのかって……素直にそう思った。


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