太樹と紀久-1
「タイキ、今日行っていい? いいの入ったから」
ニヤニヤ笑いを浮かべる修也の横には、華奢な体つきの一年生が立っている。話をしたことはなかったが、太樹も少年の顔だけは知っていた。常人離れした整った目鼻立ちは、人目を引かずにはおかない。もっとも本人にその自覚があるようには見えない。
「部活の後輩。こいつも行くから」
一年生を指さして修也が言うと、まだ本人は了解していなかったらしく、
「え? どこにですか?」
と無邪気な様子で聞く。修也の後輩ということは吹奏楽部だ。
「こいつの家。学校のすぐ近所だから」
修也はひょいとアゴで太樹を指して答える。学校に近く、親が留守がちな太樹の家には友人たちがよく遊びに来る。
「来たかったら来いよ」
太樹が校門を出ると、二人はそれぞれ自転車を押してついてきた。
家に入ると修也は、
「お邪魔しまーす」
と形ばかり挨拶してさっさとリビングに入りこみ、勝手にテレビの電源を入れる。このテレビの巨大ディスプレイこそが、修也のお目当てだ。もどかしげに学生カバンからディスクを取り出すと、慣れた手つきでセット、まもなく再生が始まった。修也はどこからか無修整のディスクを調達してくる名人なのだ。太樹もこれまでず いぶんお世話になっている。
きょうのそれは、男子校にやってきた新任女教師という、男子高生の太樹たちにとっては妙に生々しい設定だった。修也と太樹はテレビの前のソファに並んで腰を下ろし、「すげえ」「ありえねえ」などと言いつつ、早送りと再生を繰り返す。間もなく大画面に見入って黙り込み、もぞもぞとズボンの上から前をいじり始めた。 先に脱いだのは修也だった。ベルトをはずすと、下着まで一気に脱ぎ捨てて、じかにしごきはじめた。すぐに太樹も続く。冷たいソファの革が尻に気持ちいい。
「キク、お前も脱げよ」
修也の声で、太樹は一年生の存在を思い出した。キクと呼ばれた少年はソファには腰掛けず、修也の向こうの床にじかに座り込んでいる。
「いいですって」
「俺らだけ脱いでたらバカみたいだろ」
理屈にもならないことを言うと、修也は隣から一年生の上におどりかかった。
「わ! 何するんですか!」
手早くキクのベルトをはずすと、修也は強引にズボンを脱がしにかかった。キクはもちろん抵抗する。
「太樹、手伝えよ」
作品鑑賞を続けたい太樹は、
「好きにさしてやればいいじゃん」
と手を貸そうとしない。それでも修也は攻撃の手を緩めず、何とかズボンだけは脱がすことに成功した。
「うわ、なに触ってるんですか!」
「たってるじゃん。素直になれって!」
どうやら修也が急所に魔の手を伸ばしたらしい。太樹がのぞきこむと、キクが下着だけは脱がされまいと懸命に引っ張りあげる裏をかいて、修也は下のほうから手を突っ込みキクのそれをむずと握り締めている。必死に逃げる美少年と追い詰める先輩。まるで悪代官と町娘のようだ。太樹は思わず笑った。
ケータイの振動音がした。修也がさっき脱いだズボンのベルトからだ。修也はしばらく無視していたが、やはり気になって、にじり寄っていく。
「ちょっと、放してくださいよ」
なんと修也はキクの一部を握ったまま、電話のほうまで引っ張っていった。太樹はテレビの音を消した。片手でキクのモノを下着の外に引っ張り出そうとしながら、修也は、さわやかな好青年の口調で電話に応対している。切ったとたん、パッと手を放すと、
「バイト先からすぐ来てほしいって。当番の人がこれなくなったらしい」
と立ち上がった。
「断れば良かったんじゃないの」と太樹。
「でも、困ってるみたいだし、俺が逆に代わってもらうこともあると思うし」
根はなかなかいい人間なのだ。
しかし、すぐに駆けつけるのかと思ったら、そうはしない。
「ここまで見たのに、もったいないから」
と、テレビの音を戻すと、立ったまますごい勢いでしごきはじめた。