陽だまりの詩 5-1
「だから、なに言ってんだよ」
「いいじゃん!」
美沙はふてくされて布団に潜り込む。
夏休みもあと数日。
だが美沙はずっとこんな調子だ。
“帰らない”
美沙はそう言い張る。
学校で嫌なことでもあるのか。
それともただサボリたいのか。
「……」
今日も無言の抵抗に負けて病室を出る。
「……奏」
「春陽さん」
病室の前には奏がいた。
「美沙ちゃんと話そうと思って。春陽さん、いらしてたんですね」
「なんか残念そうだな」
「そんなことないですよ」
えへへ、と今日も奏はふんわり笑う。
「でも、今はむりそうだ」
「?」
***
中庭に出て美沙のことを相談してみる。
「…そうなんですか」
「困ったよ、反抗期」
俺がベンチの端に座ると奏は車椅子を漕いでその横に来る。
これで二人は同じ高さで隣り合わせだ。
「アイツももう子供じゃないし、なにか考えがあるんだろうけどな」
「…ふふ」
「ん」
奏は突然笑いだす。
「春陽さんって、美沙ちゃんのことを考えてるときが一番真面目な顔になってます」
「なんだそれ」
俺って普段どんな顔してるんだ?
「春陽さん」
「え?」
シャツの袖を引っ張られる。
「あの人、ずっとこっちを見てます」
不審な目をして前を見ている奏。
なんだ?また俺のことをロリコンだって思ってる人間がいるのか?
俺は奏の視線の方向を見る。
「……」
母さんだった。