陽だまりの詩 5-6
母さんは落ち込んでいるんじゃないのか。
そうか、もうとっくに立ち直ってたんだ。
気付いたら息子が家事を何でもやってくれるようになって、母さんはさぞかし楽な生活だったのだろう。
俺の頭の中は怒りで煮えたぎっていた。
だが、俺は母さんに直接怒りをぶつけることはなかった。
それでも家族だと、大切な母親だと信じきっていたから。
ただ俺はこのとき誓う。
金を貯めて家を出よう。
もちろん美沙を連れて。
美沙はどんなことがあっても俺が守るから。二人で生きていく。
俺は高卒で就職した。
学生時代にバイトで貯めた金があるから、同時に家を出ることができた。
美沙はもう小学生だった。
物心ついたときには既に荒れていた母親。
もちろん、そんな母親を好きになるわけがなく、いつもお兄ちゃん、お兄ちゃんと俺にくっついていた。
だから美沙は今も、母親の資格のないあの人を憎んでいる。
美沙はもちろん二人で家を出ることに反対することもなく、むしろあの忌まわしい家を出られることに喜んでいた。
この頃になると、もう母さんは全く俺達に話しかけようともしなかった。
ただ毎日、仕事から帰っては酒に溺れる日々が続いていた。
そして家を出る当日、横たわっている母さんに声をかけた。
じゃあな、と。
母さんは言った。
やっと一人になれる、と。
もう俺には憤りはなかった。
そして二人の生活が始まる。
アパートはワンルームでもよかったが、美沙ももう子どもじゃないから、無理して二部屋ある所を借りた。
美沙は“お兄ちゃんがお仕事頑張ってくれるから美沙も頑張る”なんて言ってくれて、少しずつ家事も覚えるようになっていき、心臓が弱かったにも関わらず、いつも家のことをやってくれていた。