約束…2-1
『梨絵さん…
わたし、社長…いえ、雪人さんにプロポーズされました』
あたしの携帯電話にそう坂下から電話がかかってきたのは数日前だった。
あたしはそのことがとても嬉しくて、坂下と電話をしながら泣いていた。
自分のせいで、雪人と坂下の仲が壊れたら…
そう思っていたから。
純粋に嬉しくて…
『何だかこういうことわたしの口から言うのも変ですけど…
この間のことはもう気にしないで下さいね?』
ありがとう、の言葉しか言えなかったの――
「あ、松本。今帰りか?」
「あら、雪人…
可愛い『新妻』と一緒に帰るの?」
社長室から出てきた雪人の横には、恥ずかしそうにしている坂下がいた。
「まだ籍は入れてないよ。
って麗、顔真っ赤だぞ…困ったな…」
「まだみんなにはバレてないみたいだけど、一緒に帰るってことは隠さないってことね?
坂下、雪人がイヤになったらいつでもうちに来ていいから」
「何言ってんだ、松本…」
坂下はあたしと雪人のやりとりにクスッと笑う。
雪人があたしに話しかけてくれて嬉しい。
そして坂下があたしに普通に接してくれて嬉しい…
あたしのしたことは、大きすぎるのに――
あたしが不安そうな顔をしているのをわかったのか、坂下が手を伸ばしてあたしの手をぎゅっと握る。
あたしは…泣いてしまいそうだった。
「…麗。
松本と少し話がしたいから先に車乗っててくれないか?
キー渡しとくから」
「はい、わかりました」
雪人の気持ちを察したように坂下はにこりと笑い、そう答えた。
坂下は雪人から車のキーを受け取り、エレベーターの前まで行く。
エレベーターの中に坂下が姿を消すと、雪人はふぅっと息を吐いた。
「…辛い思いをさせてしまったな」
「そんなの…辛かったのは雪人と坂下でしょ」
必死で、泣きたい気持ちをこらえる。