約束…2-8
昼休み。
社長室から秘書課に戻ってきた坂下が、あたしのところにパタパタ走ってやってくる。
――ああ、頭が痛い。
「…トイレの話?」
「そうです。
あのこたちがトイレに入ったら…
もうびっくりですよね」
坂下が『あのこたち』をひそかに指さしながら、あたしにその驚きを伝えようとする。
今日は朝からずーっとずっとその話題。
案の定入ってきたのは秘書課の女の子で、仲良し新人3人組…
まあ、あたしと真鍋だっていうのはバレてなかったみたいだけどね…
「ま、そんなことは置いといて!
梨絵さん、ご飯食べに行きましょうよっ」
「…はいはい」
とあたしが苦笑いしたとき。
秘書課のドア口で何やら騒がしい声。
――真鍋がドア口にいる。
あと、真鍋のいわゆるファンの女の子が2人。
「真鍋、モテるわね…」
「そうですねぇ…
そういえば梨絵さんの好きな人って誰なんですか?」
「え〜?」
そんな会話をしていたのだが、ドア口でキャーキャー騒ぐ女の子たちにうんざりしているらしい課長、相良真緒(さがらまお)サマがあたしの後ろを通って真鍋のところまで行く。
秘書課のみんなは面白がって声をひそめ出し、会話を聞こうとする。
「――真鍋も困ってるし、もうそろそろ放してあげてくれるかな?」
「あ、すみません…」
急に女の子たちの騒がしい声がやむ。
さすが相良課長、なんて思いながらあたしは真鍋の方を見てた。
「あ…あと言おうと思ってたんだ」
突然、真鍋が口を開く。
「俺さ、彼女いるから」
その言葉に、しん…とさらに秘書課が静かになったと思いきや「え?」「初耳!」みたいな声が聞こえ出す。
相良課長と、2人の女の子も驚いた顔をしていた。
「誰ですか?」
女の子の1人がそう真鍋に聞く。
あたしの心臓は…とても高鳴ってる。
まさか。
…まさか?
「秘書課でいちばん美人な松本梨絵さん」
にこりと笑って真鍋が答えたから、みんなの視線はあたしの元へ。
「えっ…梨絵さん?!」
真鍋とあたしの方を交互に見ながらすごくびっくりしている坂下。