約束…2-2
「松本こそ、どうなんだ。
男とうまくいってないのか?」
その言葉を聞いて、何かが突き刺さったかのように胸が痛くなった。
それを悟ったのか、雪人はあたしの頭の上にぽんっと手を乗せて、髪をくしゃくしゃと撫でる。
「何よ…子供扱い?」
「よしよし」
雪人はそう言って、八重歯を見せて笑う。
――そのとき、秘書課のドアが開いた。
あたしはさすがに、見られたらまずい、と思って一歩雪人から離れる。
そこに立っていたのは真鍋隆(まなべたかし)――あたしの最愛の人…
「社長、それでは失礼いたします…」
そう言ったとき、真鍋があたしの真横までやって来て雪人に向かってこう言った。
「松本さんに…何してるんですか」
雪人を睨みつける真鍋。
睨みつけられた雪人は口元に手を当ててクスッと笑う。
「何で、笑うんですか?
社長は松本さんのこと弄んで楽しいんですか?」
「お前か、松本の男って…
弄ぶって何のことだ?
俺はもう坂下と結婚することになってるんだが。
変な勘違いはやめて欲しい…」
「えっ…?」
ぽかん、と口を開ける真鍋の額まで雪人は中指を持っていき、ぴん!と指を弾いた。
「いてっ…
何するんですかっ」
「それと――
松本はお前だけだと思うけどな。
じゃあな、松本」
そう言い終えて雪人がエレベーターに乗り込むと、真鍋はあたしの手を引っ張る。
「えっ…?!真鍋…」
向かった先は…女子トイレ。
前に一度ここで…真鍋とは交わったことがあるけど…
ってそういう問題じゃなくて!
まだ人残ってるのよ?!
そう言おうとしたとき、あたしを個室へと押し込んで、鍵をかける。
「真鍋…
やめてよ、こういうこと…」
そう言っても、真鍋はあたしの手を握りながら、目を見つめたままだ。
「放してよ、真鍋…まだ7時なのよ?
人が来たらどうするの?」
「かまわない…別に」
「かまわないって…
やだっ…やめてよっ…!!」
あたしの唇を強引にふさぐ、真鍋の唇。
やめてと言いつつも、いちばん欲しかった唇――