星降る夜の神話 其の壱-8
『苦しくて辛いぐらいが丁度良い恋だよ』
ベットに横になりながら、正くんの言葉を頭の中で繰り返す。
「ー……『恋』…」
今まで好きな人が居なかったわけじゃない。むしろ、一月前までは彼氏さえ居た。けれど、こんな気持ちにはならなかった。もっとゆったりとした気持ちだった。
「少し休め」
シャッとカーテンを閉めると、正くんは机に戻ったみたいだ。椅子が軋む音が保健室に響いたから。
「ありがと…」
ぼそっと呟くと、天井を仰いだ。規則正しく小さな丸の穴が開いている天井を。
「………」
これが『恋』だと言うのならば、今までのは何だったんだろうか。本当に好きだと思っていたのは、違ったの?壱岐の事が好きなのか分からない。けれど、正くんは恋だという。この苦しさが『恋』だと。哀しくて苦しいだけが『恋』だというのならば、私は…、
キーンコーン…
一限目終了のチャイムに思考を妨げられた。気が付くと、もう五十分近く考えていたのかと苦笑してしまった。
ガラガラ
「失礼します」
ー由香か。
「しまーす」
ドクンッ
ー…壱岐。
「お、壱岐に七塚。銀杏の見舞いか?」
先程までの『二日酔い』で苦しんでいた顔を少しも出さずに、正くんが明るく話しかける。
「ちょっと待ってな」
シャッ
私の寝ていた場所のカーテンが開けられた。
「…どーする?」
小声で、面白そうに私に尋いて来る。
「………」
「逃げるか?」
「……逃げない。」
「っし。それでこそ俺の姪だ」
満足そうに微笑む(樮笑む?)と、
「起きるみたいだから、手伝え。…壱岐」
「!?」
なに言ってんだと正くんを睨む。が、
「逃げないんだろ?」
余裕の笑みで一蹴されてしまった。
「…う゛」
卑怯者。言葉に出さない代わり、ひたすら睨む。
「あ、…私も、」
「いや、二人で大丈夫だ。二限目に間に合うように、七塚は先に戻ってろ」
「…はい」
この事を、職権乱用と言うのだろうか。心の中で密かに由香に謝りつつ、何故か私は安堵していた。
もそもそと体を起こし、ベットから出る。
「なにもして貰わなくても、大丈夫なのに。どうせベットを整えるくらいしかないじゃん。女の子の方が良いのに」
ぶつぶつと文句を言いながら、ベットを整える。
ガラッ
ドアの開く音。
「じゃ、俺はコレで。後は二人で話し合え。どうせ次は自習みたいだから俺がごまかしとく。あ、二限目終わったら戻ってくるから、変な事すんじゃねーぞ?」
ピシャッ
ガチャ
ー…『ガチャ』?
「って、何で鍵まで閉めんの!出れないじゃないのぉ!!」
ー何て事を。
「…石野、青山と何でそんなに仲が良いわけ?」
「…………お、叔父です。」
ー…この事は言いたくなかったのに。