星降る夜の神話 其の壱-6
風が頬を強く擦る。腕を強く引かれながら、私は走った。いや、走らされた。
「ねぇ!何処に行くわけ!?」
腕を掴んでいる壱岐に大声で話しかける。でないと、恐らく聞こえないだろうから。
「あとも少し走って!ゴメン!!」
「到着!!」
やっと止まったとき、私の息は激しく切れていた。久しぶりに走ったとだけあって、脇腹もズキズキして痛い。
「なんっで、…ここま、で、走るっの!?」
息が戻らず、切れ切れに壱岐へ話しかける。
ー意味が分からない。
「…っはぁ!ゴメンゴメン」
ドサッと芝生に座り込む。
それにしても、学校にこんな所があったとは。綺麗に緑が生えている絶妙な穴場。
「…いつも此処に来てんの?」
気になったことをそのまま唇に乗せる。
「ん?ぉう。良いだろう?絶好のサボり場」
「サボり…」
「内緒な?」
と言うことは、私にも『サボれ』と言うことか?いや、一限目はもうサボるしかないのだが。
「…で?何?何か話があるんでしょう?」
「……おう」
ぶんぶんと手首を動かし、側に来るように促された。
「………」
戸惑いながらも、壱岐の側に行く。
「…なあ、」
「なに」
「付き合って」
「……無理だってば」
何回言えば分かる訳?と壱岐を見る。
「あんな理由じゃ、納得できねえ」
「壱岐…?」
あれ以上何を言えと云うのだろうか。
困惑しながら、壱岐の顔を見た。
「……」
「……」
互いに沈黙してしまい、気まずい空気が流れる。
サアッ
風が、私と壱岐の間を抜けていった。
「ー…壱岐、」
先に口を開いたのは私。これ以上沈黙すると、余計な事を考えそうだったから。
壱岐は、下に向けて
いた視線を上げて私を見た。まるで、捨てられた子犬のような瞳と目が合う。
「……う、あ、のぉ…。その、」
ーそんな瞳で見ないでくれぇ…!!
「由香…が、壱岐のコト好きって……。だから、」
「『だから』?何?」
「…う゛。だから、由香の方が私より可愛いし、それに私より可愛くて壱岐のコト好きなコなんて何人もいる。から、その…、私なんかよりそのコ達好きになった方が、」
「嫌だ。」
「…や、『嫌だ』じゃなくてさぁ、」
「俺が好きなのは、石野。他の奴なんて興味無い」
「壱岐…」
妥協する気は無いみたいだ。
ーどうしよう。
「石野」
苦しそうな声で私の名前を呼ぶ。
「……っ」
ームネガクルシイ
…どうして?
何でこんなに苦しいの?こんな、泣きそうな位の苦しさなんて知らない。
顔を上げる事さえ億劫になってしまい、地面を見る。
「石野、こっち見て」
嫌だ。こんな顔見せたくない。そう思いながらも、壱岐の声に逆らえず、顔を上げ壱岐を見る。
「……っん」
壱岐の瞳に会う前にキスが落ちてきた。
「好きだ」